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膵嚢胞性腫瘍とは
膵臓で作られた膵液を十二指腸へと流す膵管の粘膜に「粘液を作る腫瘍細胞」ができ、この粘液が膵内にたまって袋状に見えるものが「腫瘍性膵のう胞」となります。検診などで無症状に発見されることがあり、対応が問題となります。
膵嚢胞は炎症によりできた「炎症性のう胞」と腫瘍により分泌された粘液がたまった「腫瘍性膵のう胞」とを区別することがとても大切です。
以前は「粘液産生性膵腫瘍」などとも呼ばれていましたが、現在では膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)などに分類されています。頻度はIPMNが圧倒的に多いことが知られ、膵臓以外を目的としたエコー検査などで偶然発見されることもあります。IPMNは良性腫瘍から悪性腫瘍まで様々な段階で発見されます。
膵嚢胞性腫瘍(PCN: Pancreatic Cystic Neoplasm)には、代表的なIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の他、MCN(粘液性嚢胞腫瘍)、SCN(漿液性嚢胞腫瘍)などがあります。それぞれの特徴をまとめます。
IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍: Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)
粘液を産生する膵管上皮細胞嚢胞性腫瘍
次の3つのタイプに分類されます
①主膵管型:悪性化リスク高い ②分枝型:比較的良性だが、経過観察が必要
③混合型:主膵管型と分枝型の両方の特徴
分枝型IPMNの頻度は比較的多く、腹部超音波検査、腹部CT、腹部MRIで症状のない分枝型IPMNが偶然発見されることはよく経験され、膵臓以外を目的とした検査で偶然にIPMN相当の病変の見いだされる割合が4.3%というメタアナリシスの報告もあります。
IPMNは前癌病変と考えられています
主膵管型と比べると分枝型の発がん率は高くはないため悪性化を疑う所見()に注意しながら慎重に見ることとなります。米国での後ろ向き観察研究では経過観察中の分枝型IPMNの悪性化は10年で約8%と報告されています。
MCN(粘液性嚢胞腫瘍: Mucinous Cystic Neoplasm)
特徴
女性に多い(特に中年女性)
膵体尾部に好発
粘液を産生するが、膵管とは交通しない
嚢胞内部に卵巣様間質(ovarian-like stroma)を有する
悪性化のリスクあり(特に大きいもの)
画像所見
CT/MRIで単房性~多房性の嚢胞
造影効果のある壁結節があれば悪性を疑う
膵管との交通がないことが特徴
治療方針
原則、手術適応(悪性化リスクがあるため)
特に4cm以上のもの、壁結節を伴うものは積極的に切除
SCN(漿液性嚢胞腫瘍: Serous Cystic Neoplasm)
特徴
良性腫瘍(悪性化のリスクは極めて低い)
高齢女性に多い
膵頭部に好発
グリコーゲンを含む小嚢胞が集まる
中心部に星芒状瘢痕(central stellate scar)を形成することが多い
画像所見
CT/MRIで「蜂巣状(microcystic)」の嚢胞性病変
中心部に石灰化を伴うことがある
膵管とは交通しない
治療方針
基本的に経過観察
症状がある場合や増大傾向がある場合は手術を検討
比較表
IPMN | MCN | SCN | |
---|---|---|---|
粘液産生 | あり | あり | なし |
膵管との交通 | あり | なし | なし |
好発部位 | 膵全体 | 膵体尾部 | 膵頭部 |
好発年齢・性別 | 中高年・男女 | 中年女性 | 高齢女性 |
悪性化リスク | あり(特に主膵管型) | あり | ほぼなし |
治療方針 | 手術 or 経過観察 | 手術 | 経過観察 |
分枝型IPMNでは男女でほぼ同数 60-70歳代に多い
MCNや充実性偽乳頭腫瘍(solid pseudopapillary tumor:SPT)は大半が女性
まとめ
IPMN:膵管内の嚢胞、粘液産生、悪性化リスクあり → 主膵管型は手術適応
MCN:膵体尾部、膵管とは交通せず、粘液産生、女性に多い → 基本的に手術
SCN:膵頭部、蜂巣状構造、良性腫瘍、悪性化リスクなし → 基本的に経過観察
診断には画像検査(CT、MRI、EUS)や腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)が有用です。
Von Hippel-Lindau病
癌抑制遺伝子であるVHL遺伝子の変異により中枢神経や腎臓をはじめとした全身の様々な臓器に腫瘍を生じる遺伝性腫瘍症候群であるが、膵臓においてもSCNや膵内分泌腫瘍pancreatic neuroendocrine tumor:pMETがみられます。
遺伝子変異
SPTではベータカテニン遺伝子(CTNNB1)変異ならびに核・細胞質へのβカテニン蓄積がみられる
IPMNではKRAS、GNAS遺伝子変異が多いと報告されている