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マクドナルド(McDonald)基準は、多発性硬化症(MS)の診断に用いられる「空間的・時間的な病変の散在」を示す臨床・画像・検査の各要素を組み合わせた基準です。2024年に改訂案が提示され、2025年以降の正式な採用が予定されています。
McDonald Criteria2024 主な改訂ポイント
①視神経(optic nerve)の追加
視神経もMS病変の典型的な部位として「空間的散在(DIS)」に加えられます。MRI、OCT、視覚誘発電位(VEP)を用いて検出された所見が条件に含まれるようになります
②髄液中のκ(カッパー)フリーライトチェーン(kFLC)導入
これまでのオリゴクローナルバンド(OCB)に加えて、新たにκFLC(髄液中)も「時間的散在(DIT)」を示すマーカーとして認定されます
③MRIマーカーの追加(MSに特異的な所見)
Central Vein Sign(CVS):MS病変に特徴的な血管を伴う所見で、90%以上の感度・特異度を有するとされます。

Campion, et al. 2017
MS病変の中心に静脈がみえます
Paramagnetic rim lesions パラマグネティックリム病変(PRLs; パールス):炎症性反応を示す所見で、MSに高特異的とされています。病変の周辺に鉄が沈着します。

(Christopher C. Hemond, et al. 2021)
NEDA-3(No Evidence of Disease Activity 3)
NEDA‑3(No Evidence of Disease Activity‑3)は多発性硬化症(MS)の治療目標のひとつで、以下の3つの条件をすべて満たす状態を指します:
①臨床的再発なし
明らかな新症状や再燃エピソードがない
②障害進行無し
一定期間(通常6ヶ月)にわたり障害評価スコア(EDSS)が悪化していない
③頭部MRIで新規病変なし
新規または増大するT2病変、造影効果を伴う病変が出現していない
オファツマブ(ケシンプタ)は主に抗CD20陽性B細胞に対する薬剤で再発を伴うMSにおける6年でのNEDA-3達成率が91.9%と非常に高い水準を示しています(Hauser SL, et al.: Mult Scler. 2023; 29(11-12): 1452-1464)
MSとエプスタイン・バーウイルス(EBV)
EBVはヘルペスウイルスの一種で、唾液を介して体内に侵入して、リンパ球の一種であるB細胞に感染します。成人の約95%が感染しており、幼少期に感染するとほとんどが無症状ですが、青年期にEBVに感染した場合には、免疫系がEBVを察知し、排除しようと過剰な免疫反応を仕掛けるため、過剰な細胞性免疫反応が起こります。このときに、本来EBVに向かうべき免疫系が、何らかの理由で自己に対して攻撃を行ってしまうことで、MSが発症すると考えられています(分子相同性仮説)。
PIRA(Progression Independent of Relapse Activity)
PIRA は 再発によらない障害の進行(=EDSS(拡張障害尺度)が悪化した状態)と定義されます。
PIRAは累積する障害の主要な原因となり、進行期MSに移行する主軸とされています。PIRAは治療抵抗性であり、早期からの治療や多面的な病状評価が求められています。
空間的散在(DIS:Dissemination in Space)
MSの診断では以下の5部位のうち2カ所以上に病変が存在することでDISを満たします(※2024年マクドナルド案で視神経が追加されました):
領域 | 説明 |
---|---|
① 脳室周囲(periventricular) | 側脳室に接する白質病変 |
② 皮質下・皮質下白質(juxtacortical/cortical) | 大脳皮質近傍または皮質内病変 |
③ 小脳・脳幹(infratentorial) | 橋、小脳、延髄など |
④ 脊髄(spinal cord) | 頸髄・胸髄などのT2高信号病変 |
⑤ 視神経(※2024改訂案で追加) | VEP、OCT、造影MRIなどで評価 |
Double inversion recovery(DIR)は皮質病変の描出に有効なMRI札像法です

(Lancet Neurol 2012)