目次
MG(重症筋無力症)は2018年の全国疫学調査では患者数が29,210人と報告されています。男性よりも女性がやや多く、男性の1.7倍程度となります。年齢を問わず発症しますが、女性では30歳代から50歳代に、男性では50歳代から60歳代に、発症のピークがあります。高齢発症するケースでは男女差が少ないことが知られています。
難治性重症筋無力症に対する分子標的薬の導入
重症筋無力症(MG)に対する治療戦略としては、 早期速効性治療(fast-acting treatment)がわが国で提唱されてきたものの難治例(全体の21%とされる)が問題であり、分子標的薬の開発が待たれていました。
MGに対する分子標的薬は、2017年に承認された抗C5モノクローナル抗体エクリズマブが最初です。
胎児性Fc受容体(FcRn)を標的とした新たな生物学的製剤, エフガルチギモド(製品名ウィフガート)がMGに対して2022年1月にわが国でも承認されました。
ロザノリキシズマブ(商品名:リスティーゴ)は、皮下投与用のヒト化モノク ローナル抗体であり、FcRnに高い親和性で特異的に結 合します。
FcRnと病気の関係(FcRn結合阻害薬)
FcRnはIgGの分解を防ぐため、自己抗体が長期間体内に残ることがあり、重症筋無力症(MG)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に関与しています。
最近、自己免疫疾患を治療する薬が開発されています。例として、ウィフガード(efgartigimod)はFcRnを阻害することで自己抗体を減らしMGの治療薬として使われます。
エクリズマブ
ヒト化C5モノクローナル抗体であるエクリズマブは 2017年12月にアセチルコリン受容体(AChR)抗体陽 性全身型MGへの適用を取得しました。AChR抗体は神経筋接合部で補体カスケードの古典経路を活性化し、膜侵襲複合体が過剰に生成されます。エクリズマブは補体C5に高い親和性で結合し膜侵襲複合体を抑制することで効果を発現します。一方、髄膜炎菌などに対する免疫力が低下することが懸念されています。そのため、髄膜炎菌感染症に対するワクチ ンの前投与が必須とされています。
エクリズマブは抗AChR抗体陽性患者にのみ適応ですが、ウィフガートは同陰性患者(抗MuSK抗体陽性,
double seronegative)にも使用可能である点が異なります。
ジルコプランナトリウム(商品名:ジルビスク)は、補体C5を阻害する1日1回(毎日投与)自己投与型皮下注ペプチド製剤です。補体C5に結合しC5a及びC5bへの開裂並びにC5bおよびC6の結合を阻害するデュアル作用によって神経筋接合部への補体が関与する損傷を阻害する次世代補体C5阻害剤です。全身型MG治療薬としては初の自己注射が可能な皮下注射剤です。
ウィフガート
エフガルチギモドはヒト胎児性Fc受容体(FcRn)に 高い親和性で特異的に結合し、免疫グロブリンG(IgG) のリサイクリング過程を抑制することで、病原性IgG自 己抗体を含むIgGの異化を促進させて血中IgG濃度を大幅に低下させます。
投与方法:通常、成人にはエフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)として1回10mg/kgを1週間間隔で4回1時間かけて点滴静注する。 これを1サイクルとして、投与を繰り返します。
MM-5
Minimal manifestationsとはMGの症状が「日常生活を送る際に支障にならない最小症状」(軽微である状態)を指します。
完全寛解とほぼ 同等の患者QOLが得られ、完全寛解より多くの患者が 到達可能な治療目標としてMMまたはそれ以上(MM or better)を目指すことになります。
このminimal manifestations(MM)かつ経口プレドニゾロン 5mg/日以下の達成を目標とする治療戦略(MM-5)が、「MG/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン 2022」の基本的コンセプトとなっています。
早期即効性治療戦略 early fast-acting treatment(EFT)
EFTは非経口の即効性治療(血液浄化療法・ステロイドパルス療法・免疫グロブリン静注療法)を治療開始早期に行う治療法です。経口ステロイドの減量を目指し、MM-5達成を目指します。
EFTにより少なくとも6カ月 以上継続するMM-5mgの早期達成率が経口ステロイド を重視する従来型治療に比し改善します。