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NIHSSとは
脳梗塞の重症度や転帰を説明するための、いくつかの大事な尺度があります。
米国国立衛生研究所(NIH)の脳卒中スケール(Stroke Scale)であるNIHSSは脳卒中に特有な神経症状を点数化して定量的に評価したものです。
救急の現場で用いられる世界共通の脳卒中の指標として広く用いられています。
NIHSSは意識、眼球運動、顔面神経麻痺、四肢筋力、失調、知覚、言語などの15項目から構成されます。42点満点で点数が大きいほど重症になります。
NIHSSの点数はt-PA療法の独立した転帰規定因子であり、それゆえNIHSSを正確に評価する必要があります。
NIHSS実施の注意点(主に研修医向け)
NIHSSは大きく分類して
①意識と眼(1~3) ②運動(4~7) ③感覚と言語(8~11)
に分類されます。各々の注意点をまとめて行きます。
1a~1c 意識の評価のポイントは意識障害と失語をまずは鑑別することです。
意識障害や失語がある場合は評価がやや複雑になるので、まずは意識障害も失語もない場合のNIHSSについて説明します。
1 意識: 意識障害や失語もない場合は1a~1cはすべて0点となります。
2 最良の注視: 眼球運動障害や共同偏視があってもわずかに追視できれば1点、まったく動かない場合は2点です。2点の多くは意識障害を伴います。
3 視野: 右目・左目を個別に、右上・右下・左上・左下の四カ所で確認します。両目で1/4盲があれば1点、左上下または右上下の異常(=両目の半盲)は完全半盲(2点)、両目が全盲なら3点となります。
4 顔面麻痺: 鼻から下半分と、眼から上半分の上下に分けます。軽度の下半分の麻痺(鼻唇溝の平坦化・笑顔の不対称)は1点で、それ以上の完全またはほぼ完全な下半分の麻痺は2点(部分的麻痺)。下半分に加えて上半分の麻痺があれば3点(完全麻痺=顔面半分の動きがまったくない)となります。
5 上肢の運動: Barre徴候とは異なり、手掌を地面の方向に向けます。そして左右別に、片方ずつ所見をとります。仰臥位で診察することが多いですが、このとき腕の角度は45度で10秒間姿勢を保持してもらいます。わずかに麻痺があっても10秒保持できれば0点、保持可能だが10秒以内にゆっくり落ちれば(ベッドまでは落下しない)1点、45度まで挙上できないが重力に抗して動けば2点、重力に抗して動かず即座にベッドで落ちてしまう様なら3点、まったく動かない場合は4点です。
6 下肢の運動の評価も同様(0~4点)ですが、こちらは30度挙上・5秒間で評価します。
7 失調: 各四肢で2回以上、指鼻試験および踵膝試験を左右で評価します。1肢に失調がある場合は1点、2肢以上に失調がある場合は2点。
8 感覚: 左右の顔面・上下肢・体幹に痛み刺激を与えます。手首や足首より末梢では評価しないようにします(末梢神経障害と区別できない)。全く感覚がない場合は2点、少しある場合は1点です。
9 最良の言語:失語がなければ0点
10 構音障害:まったく理解できないときは2点 検者が理解できれば1点
11 消去現象と注意障害(空間無視): 消去現象は、左右別々に感覚刺激を受けると認識ができるが、左右同時に刺激を受けると一方を認識できない状態です。
診察方法としては、聴診器などで真ん中をつかんでもらい、つかめなければ2点(重度の半側不注意)。つかめた場合、左右の上肢を同時に握る(触覚の2点同時刺激)・両耳そばで指をこする(聴覚の2点同時刺激)・視野の左上と右下で指を動かす(視覚の2点同時刺激)を行い評価します。2つ以上できなければ2点です。
失語患者のNIHSS
パントマイムやvisual threat(少しびっくりするような組閣刺激)を用いて評価します。
1a 意識水準: JCS一桁=0点 JCS10=1点 JCS20-30=2点 JCS3桁=3点 に相当
1b 質問:月名と年齢を質問します
1c 従命:口頭指示で開眼や離握手が困難でも、失語の可能性があるので、続けてパントマイムで反応できるかを確認します。反応できれば失語、反応できなければ意識障害です。
8 感覚刺激:痛覚刺激で四肢の逃避反応や顔しかめで評価します。(重篤な感覚障害が明かなときのみ2点となるので、通常は失語症患者は0点または1点となります)
9 最良の言語:以下に示す3つのカードの絵や文章を説明してもらう・読んでもらうことで評価します。
1点は推測すれば質問の答えはわかる(同定できる) 2点は推測しても答えがわからない(ほぼ無言に近い状態) 3点は全失語
10 構音障害:ほぼ無言なら2点(完全な運動性失語もしくは全失語の場合も2点をつける)
11 消去現象と注意障害:失語の場合は0点のことが多いです。
意識障害のNIHSS
ポイントは
・運動と感覚は痛み刺激で評価します。
2 最良の注視: 意識障害や昏睡で指示が入らない場合、共同偏視を認める場合は1点か2点ですが、その区別が問題になります。
このとき「人形の目現象」を確認します。正常で脳幹障害がなければ、頭を急速に左右に動かすと眼球はその運動方向と反対方向に動きます。(人形の目現象陽性=正常 この場合は1点)
人形の目現象が陰性で頭と目が同時に動いてしまうようなら脳幹障害有りと判断し、2点となります。
7 運動失調 絶対に失調があるといえないときには加点しないので多くの場合は0点になります。
8 感覚 四肢麻痺や昏睡でまったく反応がない場合は2点 刺激でそれなりに動く場合は0点
9 最良の言語 昏睡の場合は3点
10 構音障害 昏睡で発語がない場合は0点
11 消去現象と注意障害 昏睡では2点 意識混濁では多くの場合は0点になります。