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RIS(Radiologically Isolated Syndrome)は、多発性硬化症(MS)の発症前段階と考えられる病態です。
RISとは?
RIS(Radiologically Isolated Syndrome)は、神経症状がないにもかかわらず、MRI検査でMSに特徴的な病変が偶然発見された状態を指します。
片頭痛などで偶発的にMS病変が見つかった状態です。
時間的多発がなくてもMSと診断可能になってきている
MSは「中枢神経症状の空間的・時間的多発をきたす疾患」が特徴であり「空間的多発」とは中枢神経内の様々な場所に病変が出現することを意味し、「時間的多発」とは再発を繰り返すことを意味します。
しかし、MSが「時間的多発」する疾患であるという概念は変わりつつあります。
現在使用されているMSの診断基準はMcDonaldの診断基準と呼ばれていますが、診断基準の特徴は画像や髄液、電気生理検査を用いてMSが再発する前に診断が可能になってきています。
MSが疑われる症状が1回だけある状態をCIS(Clinically Isolated Syndrome)と呼びますが、McDonaldの診断基準ではCISの患者さんの一部がMSと診断可能です。再発を経験したことがないMS、つまり「時間的多発」のないMSが存在することとなりました。また画像所見よりMSが疑われるRISの患者さんは一度もMSの症状を経験したことがないので、そもそも「時間的多発」という概念が当てはまりません。RISの一部はMSと診断されます。このような流れから、MSの疾患概念において「時間的多発」の重要性は薄れつつあります。
MSと慢性炎症
MS発症数年前から血液中にニューロフィラメント軽鎖という物質が上昇していることが報告されています。血清ニューロフィラメント軽鎖の上昇は中枢神経に炎症が起きていることを示唆します。つまり、MSは発症前から中枢神経に炎症が起きており、そのために頭痛、うつ、疲労など様々な症状が出ている可能性が疑われています。
RISの経過とMS発症リスク
RISの患者は無症状ですが、約30~50%が10年以内にMSを発症すると報告されています。リスク要因として:
脊髄病変がある → MSへの進行リスクが高い
MRIで病変が増加する(新規T2病変)
脳脊髄液(CSF)でオリゴクローナルバンド(OCB)陽性
若年発症(特に35歳以下)
これらの因子がある場合、RISがMSに進行する確率が高いと考えられます。
RISに対する治療は必要か?
現時点では、RISに対する標準的な治療ガイドラインは確立されていません。しかし、進行リスクが高い患者では、疾患修飾療法(DMT)の早期導入が検討されることもあります。
治療の検討が推奨される場合
MRIで病変が増えている(活動性あり)
脊髄病変がある
OCB陽性(髄液異常)
DMTを早期に開始することで、MSへの移行を遅らせたり、障害の蓄積を防ぐ可能性があります。
Central vein sign
白質病変が静脈に沿って広がることから、MRIで病変の中心に静脈が描出されることを「Central vein sign」といいます。磁化率強調像で描出されやすい特徴があります。NMOSDとの鑑別に有用である可能性があります。
paramagnetic rim sign
SWIなどの磁性画像で病変周囲に低信号(hypointense)の薄い輪郭がみられる
持続的な炎症が続く「慢性活動性病変」を反映
まとめ
RISは症状がないが、MRIでMSに特徴的な画像病変がある状態 脊髄病変があるとMSらしさがUPする
約30~50%の患者が10年以内にMSを発症
MRIや髄液検査でリスクが高い場合、治療を考慮することもある
RISは「MSの前段階」として注目されており、早期発見と適切なフォローが重要です。