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慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: CIDP)とは、 2カ月以上にわたり進行性または再発性の経過を示す四肢の筋力低下やしびれなどの感覚障害をきたす末梢神経疾患で、末梢神経に対する自己免疫が関与しています。発症は10万人あたり1.61人の希少疾患です。経過は、単相性、再発性、進行性があり、 臨床型は多様で、治療としては、寛解導入療法と維持療法があります。

「慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー (chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy : CIDP) ・多巣性運動ニューロパチー (multifocal motor neuropathy : MMN) 診療ガイドライン2024」が2024年5月に発刊されました。CIDP・MMNの診療ガイドラインが初めて編集されたのは2013年であり、11年ぶりの発刊となりました。新しいガイドラインに現在の維持療法が記載されています。

CIDPでは初期治療(寛解導入療法)が奏功しても、再発や緩徐な進行が見られることがあります。そのため患者さんによっては継続的な治療、すなわち維持療法が必要です。維持療法の目的は日常生活動作の維持のみにとどまりません。維持療法は「不足させないこと」と「過剰を避けること」の相反する二つの方針のバランスを考慮しつつ行われるべきです。

CIDPは髄鞘の炎症性疾患ですが、適切にコントロールしないと二次的軸索変性を生じます。軸索変性が生じると筋萎縮や麻痺などの不可逆的な後遺症となり得ます。後遺症を残さない完全寛解を目指すには適切に炎症をコントロールする「不足させない」維持療法を行う事が大切です。

その一方で、CIDPの患者さんの中には、初期療法のみで、長期寛解する方もいらっしゃいます。静注用免疫グロブリン(IVIg)の維持療法の有効性を検討したICE Studyでは、プラセボ群において一定期間、再発が見られない患者が約50%いることが示されました

https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474442207703290/abstract

すなわち初期療法に引き続いて維持療法の必要がない患者さんが相当数いることと示唆されています。

本来治療の必要がない患者さんに対して長期の維持療法行うことは、患者さんの負担やリスク、医療経済を考えると望ましいことではありません。これが維持療法における「過剰を避けること」です。維持療法においては、積極的に治療を行いつつも、引き際を見極めるという視点も大事です。

維持療法の治療選択肢について

以前は維持療法の治療選択肢はステロイドとならざるを得ませんでした。IVIgは5日間連続投与しかできず、療法の選択肢としては現実的ではなかったためです。しかし現在では、ステロイド、IVIg(献血グロベニン-I、献血ヴェノグロベニン、ピリヴィジェン)、皮下注用免疫グロブリン(SCIg)(ハイゼントラ)などが維持療法として使用可能であり、選択肢は増加しています。ピリヴィジェンは10%製剤があり投与時間を短縮できます。

維持療法では有効性を認めた治療を原則継続します。単独療法で有効性が充分でなく、日常生活動作に支障がある場合には、複数の治療の併用を検討します。例えばIVIgによる維持療法が効果不十分である場合、ステロイドを追加します。

皮下注射製剤によるガンマグロブリン補充療法(SCIG)

ハイゼントラ皮下注は、日本で初めての高濃度20%皮下注用人免疫グロブリン(SCIG;Subcutaneous Immunoglobulin)製剤です。在宅自己注射を念頭に開発されたもので、従来の静注用と比べて投与量や投与時間が低減されています。週1回投与します。

維持療法中のモニタリングについて

維持療法中は、臨床症状や副作用について注意深くモニタリングを行う必要があります。IVIg療法中の経過観察は、グロベニンの血中濃度をイメージしながら行うと、とても進めやすくなります。グロブリンの血中濃度は投与直後に急上昇し2日から4日にかけて急激に低下します。その後は緩やかに減少し、半減期は3から4週です。この推移に対比させることで副作用の発現しやすい時期を予測したり、患者さんの自覚症状の推移とグロブリン濃度の関連を推測することが出来ます。

治療効果のフォローアップについては、手に筋力低下があれば握力測定を簡便かつ定量的な方法としてお勧めしております握力は四肢機能やQOLと相関するとも言われており、これによって治療効果の全体像を推測する事もある程度可能です。病勢の強い例ではグロブリンの血中濃度の高い時期に握力が上昇し、血中濃度の低下とともに握力も低下します。IVIgによる維持療法の場合、来院時は血中濃度がトラフ値となり、握力も低下していることがあります。

維持療法をいつ辞めるかも実臨床で大きな問題の一つとなりつつあります。自宅で継続的な握力測定を行い、グロブリンの血中濃度によらず測定値が安定してきたら、IVIgの減量や投与中止の時期を検討しても良い可能性があります。副作用中でも頭痛や血栓症などはグロブリンの血中濃度がピークの時期に発現しやすい可能性があります。

維持療法を終了するタイミング、基準、IVIgの減量方法について

維持療法開始後しばらくの間、臨床症状の改善が維持できれば終了も視野に入れつつ治療を進めます。一般的にIVIgの維持療法は3週ごとに来院が必要とされています。

握力や筋力などが安定してきたらご本人と相談しつつ投与間隔の延長や減量を検討して行きます。投与間隔が8週以上空いても悪化がない場合、トラフ値のグロブリンの血中濃度を考えるとすでに治療が必要無い状態である事が推測されます。

万が一投与中止してCIDPが再発しても、もう一度治療すれば再発以前の状態に戻すことができること、治療の長期化や加齢に伴い生じる副作用もあることを考慮して治療を終了していきます。

現在のところ、維持療法中に再発が起こりやすい患者さん特徴などはわかっていません。IVIgの減量のタイミングや方法についてもいまだ確定的な方法論が得られていないのが状況です。患者さんの様子を客観的に評価しながら慎重に進めていく必要があると考えられます。

参考文献

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の維持療法について: 三澤 園子先生監修 2021年8月作成(日本製薬株式会社)

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投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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