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ヘパリン起因性血小板減少症heparin-induced thrombocytopenia(HIT)とは
ヘパリン起因性血小板減少症 heparin-induced thrombocytopenia(HIT)は、ヘパリン
投与に伴う重篤な合併症です。血小板減少症の病名ですが、高度の血小板減少や出血傾向を伴うことは稀で、強い血栓傾向を本態とし、動脈・静脈の両方に血栓が形成されます。
全ヘパリン投与症例の1-3%に起こり、ヘパリン使用量とは関係なく、動脈ラインや血管撮影などで少量のヘパリンを使った後にも抗体が誘発されることがあります。
通常ヘパリン投与後の5-14日後に起こり、特に冠動脈や脳血管のインターベンション後に治療血管が誘発され、ヘパリンを使えば使うほど血栓症が増悪するので注意を要します。
ヘパリン-血小板第4因子複合体に抗体が形成
血小板が活性化されると血小板第4因子(PF-4)(platelet factor4)が形成されます。PF-4はサイトカインの一種です。PF4あるいはヘパリンのみでは抗原性を持たないのですが、それらが複合体を形成することによりPF4に構造変化が起き、抗原性を発揮します。
ヘパリンが生体内に投与されるとヘパリンとPF4との複合体が形成され、この複合体を新生抗原と
してHIT抗体が産生されます。
産生されたHIT抗体はPF4-ヘパリン複合体と免疫複合体を形成し、この抗体のFc部分が血小板上の受容体に接合し、血小板自体が活性化され、血小板減少を引き起こされます。
さらに活性化された血小板からPF4が放出され、一連の免疫反応が促進されるとともに、凝固促進因子であるマイクロパーティクルが放出されトロンビン産生が促進されます。この免疫複合体は、単球にも作用して組織因子を発現させトロンビンを産生させます。また内皮細胞上ではヘパラン硫酸とPF4の複合体を抗原としてHIT抗体との免疫複合体が形成され内皮細胞が活性化されます。活性化された内皮細胞上では組織因子が発現し、さらにトロンビンが産生されます。このようにトロンビンが過剰に産生されるのがHITの特徴であり、血小板減少症とともにしばしば血栓症を合併する原因となります。
HIT抗体は感度が高い
ELISA法はHIT抗体に対する感度が高く陰性であればほぼHITを否定できますが、陽性だからといってすべての患者でHITを発症するわけではありません。そのため臨床的にHITが疑われた時にその確認のためにHIT抗体検査が行われています。HIT抗体は一過性の抗体であり、多くは約50~85日程度で陰性化します。
治療
まずはHITを疑い、ヘパリン投与を中止することから始まります。
HITに対して効果がある抗トロンビン薬であるアルガトロバンが保険適応になっています。