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抗MOG抗体とは
ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)とは、中枢神経の髄鞘の主要な構成蛋白です。MOGは中枢神経系の髄鞘の最外層に存在します。
このMOGに対する自己抗体が産生されると、標的細胞であるオリゴデンドロサイトが神経線維を取り囲むように存在しているため、炎症を起こして細胞が消失してしまいます(=脱髄)。その結果神経線維がむき出しとなり容易に神経線維が障害されてしまいます。
類似の病態(中枢性の脱髄を生じる自己免疫疾患)である、多発性硬化症や視神経脊髄炎(NMO)とは異なる疾患群とされます。
多発性硬化症や視神経脊髄炎(neuromyelitis optica;NMO)との違い
NMOは同時、もしくは引き続いて起こる視神経と脳脊髄の炎症が特徴です。多くの症例でアクアポリン4(aquaporin-4)に対する自己抗体が陽性になっています。
しかしながらNMO患者の10-20%で抗AQP4抗体が陰性で、それらにはMOGに対する自己抗体(抗MOG抗体)が関連することが判明してきました。
NMO(および多発性硬化症)と同様に抗MOG抗体関連疾患でも、中枢神経に脱髄性の炎症性病変を起こす点は共通しており、視神経炎や長軸方向に長い脊髄炎をきたすことが多く、臨床症状からは区別が困難なことがあります。
抗MOG抗体関連疾患の画像所見
①脳病変
発症時の頭部MRIでテント上(大脳と小脳の間にある小脳テントという厚い小脳テントとよばれる硬膜)に異常を認めるのは約35%、テント下は約15%とされます。
テント上では脳室周囲、脳梁、大脳深部白質、皮質下白質(皮質直下も含む)などに病変がみられます。広大な白質病変がみられた症例報告もあります。
テント下では中脳や小脳に病変を生じることがあります。
抗MOG抗体関連疾患で脳幹が障害される頻度は約30%ですが、抗AQP4抗体陽性NMOでも同様に約1/3で脳幹を障害するとされます。
ただし、抗MOG抗体関連疾患で脳幹のみの障害はまれで、視神経炎や脊髄炎を伴うことが多いとされます。
他に留意すべき点としては、大脳皮質~髄膜にかけて病変を生じ、全身性痙攣発作を生じることもあるので注意が必要です。MRIでは片側性に大脳皮質が腫大し、FLAIR像で高信号を示すが、拡散強調像では信号上昇がみられないことが特徴とされます。
②脊髄病変
急性の脊髄炎で発症した症例の約65%では3椎体以上にわたる脊髄長大病変を認めたという報告があります。場所は頚髄・胸髄に多く、腰髄や円錐には少ないとされます(脊髄円錐に多い、という報告もあります)。
抗MOG抗体陽性の炎症性脱髄疾患は、横断面で脊髄の中央付近に病変を認めることが多いです。
③視神経炎
抗MOG抗体陽性で臨床的に視神経炎のある患者さんの約55%にMRIで異常がありました(STIRで視神経の腫脹など)
視神経の全長1/2を超える病変や視交叉病変などの抗AQP4抗体陽性NMOに特徴とされている所見も、抗MOG抗体陽性の視神経炎の約31%でみられたとされています。
抗AQP4抗体陽性NMOと比較すると抗MOG抗体関連疾患では脳や脊髄に比べて視神経が障害されやすく、視神経周囲に造影効果がみられることが特徴とされます。
抗MOG抗体関連疾患の臨床症状
対麻痺の程度は軽く、感覚障害が主体であることが多く、しばしば尿閉を認めることがあります。
また抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎と異なり、抗MOG抗体陽性視神経炎例では眼痛をきたすことがしばしばみられることも特徴です。視力低下の予後は抗MOG抗体関連疾患の方が抗AQP4抗体関連疾患よりも予後が良いことが多いです。
発症年齢は幼児から高齢者まで幅広く、男女差無く発症し、ステロイド反応性が良いことが特徴です。しばしば再発することがありますが、比較的頻度は少ないとされます。
抗MOG抗体が関与する病態では、約半数が単相性に経過し、再発しないことが報告されています。しかしながら小児例や抗体価が高い症例では再発することがあることが知られています。(約半数で再発を繰り返し、再発症状の多くは視神経炎であるとされます)
そのような症例では再発予防にプレドニゾロン5-15mg/日の内服がすすめられます。
検査所見
髄液検査で軽度リンパ球・蛋白・IgGが増多することがあり、オリゴクローナルバンド陽性率は高くありません。血液検査ではあまり特徴的な所見は呈さないとされます。
抗体検査
2017年より血清中抗MOG抗体の検出(cell-based assay;CBA法)がコスミックコーポレーションより可能となりました。
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