目次

認知症を伴う成人発症白質脳症の分類

以下の様に大別が可能です

①アストロサイトを侵す疾患

Alexander病

②ミクログリアを侵す疾患

CSFR1関連疾患

副腎白質ジストロフィー症

③小血管を侵す疾患

CADASIL

HTRA1関連疾患

Col4A1/A2関連疾患

その他

成人型Alexander病

GFAP遺伝子の異常

延髄含む著明な萎縮 中脳の高信号

自律神経障害(排尿障害 縮瞳)

・Dysphonia(発声障害)

(その他 垂直性→全方向性眼球運動障害 Collier徴候=両上眼瞼の後退→中脳 体幹失調 初期には錐体路症状目立たない)

CSFR1関連疾患

(CSF1R-related leukoencephalopathy)

神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(hereditary diffuse leukoencephalopathy with spheroid:HDLS)は2012年に原因遺伝子がCSF-1Rであることが判明しました。

平均発症年齢が43歳とされ、数年の経過で認知症やてんかんを発症し不幸な転帰をたどります。

びまん性白質脳症や剖検でスフェロイド形成を特徴とします。錐体路症状も認めます。

頭部MRI所見に特徴があり、脳梁の菲薄化、脳室周囲や脳梁周囲の石灰化(点状の石灰化でビーズライクの石灰化と言われます)

本症を疑ったらシンスライスでCTを撮影することが大切です。

DWIでは限局的な高信号病変(まばらな高信号病変)を認めることも本症に特徴的であるとされます。

CADASIL:皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症

CADASIL;Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarct and Leukoencephalopathyは10万人あたり4.1人と頻度が高く、若年性の小血管病では本症を一度疑った方が良いとされます。

最初に細動脈(最も細い動脈)が侵されます。

遺伝子異常はNotch3遺伝子のEGF-like repeatsをコードするexon2-24のシステイン残基のミスセンス変異が原因として知られます。

約10%でCADAISL昏睡と呼ばれる意識障害、けいれん、よくわからないような言動などの急性可逆性脳症がみられます。

CARASIL:皮質下梗塞と白質脳症を伴う脳常染色体劣性動脈症

CARASIL(cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)はCADASILに次いで多い重症白質脳症の原因と言われます。

平均20.6歳で発症し、禿頭(一様に髪が抜けるわけでは無く、まばらで薄くなる)や急性腰痛を特徴とします。腰痛は発症時MRIでわからないことも多く、通常の椎間板ヘルニアの好発部位より高位でみられることが知られています。

CADASILとは異なり、片頭痛はみられません。脳卒中も2割程度でしかみられません。脳出血が少ないのも特徴です。大血管の脳卒中の報告はありません。

CARASILは7割が男性で、1/3は孤発症例とされます。

初発の神経症状は歩行障害が6割、認知機能障害が2割とされます。

頭部MRIの特徴は白質脳症が先行してだんだんと進みます。白質の変化は前頭葉から後ろに進み(副腎白質ジストロフィーとは逆)、脳梁は保たれます。側頭極、外包、橋(アークサイン)に病変を認めます。全体的に萎縮が強くみられます

原因遺伝子はHTRA1遺伝子の異常が判明しており、蛋白分解酵素の異常によりTGF-βシグナルが活性化することで血管障害が起こると考えられています。

本症は常染色体劣性遺伝ですが、ヘテロ接合体でも禿頭と椎体変形を呈することが報告されています(いわゆる優性阻害ドミナントネガティブ効果により変異タンパク質が正常タンパク質を阻害するためと考えられます。)ヘテロ接合者はやや軽症の臨床型を示し、発症年齢は中年とやや高く、中年発症の原因不明の脳血管障害の原因となります。ヘテロ接合者は男性に多く、高血圧などのリスクファクターを持っていることが多いです。脳梗塞が多く、歩行障害、禿頭、変形性脊椎症が少ないのが特徴です。

70歳以下の重症白質脳症を見た際には、遺伝歴の有無を問わずCADASIL/CARASILの可能性を一考する必要がありそうです。

COL4A1/A2変異による脳血管障害

血管内皮細胞と平滑筋細胞の間に、基底膜が存在します。COL4A1/A2変異は基底膜の構造異常(基底膜が切れてしまい、破綻する)による全身の微小血管障害(出血が目立つ)を発症し、脳・腎臓・眼・筋肉・貧血などの異常をきたします。

同一家系内でも臨床症状に多様性があることが知られており、家族歴がないようにみえることがあります。

大脳白質脳症を伴う網膜血管障害

Retinal vasculopathy with cerebral leukoencephalopathy:(RVCL)は以前はHERNS(hereditary endotheliopathy retinopathy nephropathy and stroke)と呼ばれていました。

RVCLの最大の特徴は脳腫瘍のような画像所見(ring enhancementなど)を示すことです。35-45歳頃に発症し、急速に症状が進行します。脳・網膜・腎臓の血管が侵され、腎機能異常や尿蛋白でみつかることもあります。

遺伝子変異は判明しており、TREX1変異が原因として知られます。TREX1は小胞体エキソヌクレアーゼ活性に関与することが知られており、細胞質内にたまったDNAなどの物質を除去する働きがあります。遺伝子変異でエキソヌクレアーゼ活性が低下すると自己免疫性活性が上昇することが知られております。結果として自己免疫性疾患の発生機序が想定されています。TREX1に関連する病気としてSLEなども知られています。

本症では細胞質内の局在を失い、核に局在を起こすことが知られています。(RVCL1関連変異TREX1では機能そのものは維持されます。)

若年で原因不明の蛋白尿があって、家族内に脳腫瘍と言われたことがあるような人は本症を疑う必要があります

Fabry病

潜因性脳卒中患者に隠れていることがあり、欧米では18-55歳未満の潜因性脳卒中症例で男性の4.9%、女性の2.4%に本症がみられたという報告もあります。

脳卒中がファブリー病の診断に先行することもあり、男性の50%、女性の38%が脳卒中を起こした時点で未診断でした。7割で合併症である腎障害、心機能障害を呈さなかったという報告もあります。

伴性劣性遺伝形式をとりますが、女性でも高率にみられ、発症率は変わらないとされます。6割が無症候とされます。

病理学的には内皮細胞、平滑筋細胞にグロボトリアオシルセラミドを始めとする糖脂質が沈着します。

MRAでは椎骨脳底動脈の拡張(elongation・ectasia)が有名ですが実際はあまり多くないようです。視床枕にT1で高信号病変がみられることも知られていますが、この病変の頻度は大きく変わらないとされます。

家族性アミロイド血管症

APP遺伝子変異(常染色体優性遺伝)により本症を起こすことが知られています。

中高年に脳葉出血で発症し、1/3で初発発作が致死的になります。

同時に白質変化もみられます。

中高年に発症する脳葉出血で、基底核領域の出血に乏しく、白質病変を伴い皮質白質境界に微小出血がみられる場合には本症を考える必要があります。

血管病変の病理としては後頭葉の皮質枝に好発し、平滑筋層が消失するのが特徴です。