目次
TBW、ICF、ECFの定義
・Total Body Water(TBW)=身体のなかの総水分量 体重の60%
・このTBWは ①細胞内液(intracellular fluid : ICF) ②細胞外液(extracellular fluid : ECF)の2つに分けられます。ICFは細胞の中の水分、ECFは細胞の外の水分です。
・大事なのはICF:ECF=2:1です。
ECFの分布
ICF:ECF=2:1ですが、このECFはさらに間質と血管内に分かれます。
間質(間質液):血管内(血漿)=3:1です。両者は血管壁により仕切られています。
ポイントは間質はECFになります。
(例)体重60kg
TBW 60×0.6=36L
TBWの内訳はICFが24L、ECFは12L
間質は9L 血管内が3L
(注)すべての人でTBWが体重の60%あるわけではありません。小児では65-80%、女性は脂肪が多いので45-55%と言われます(脂肪には水はあまり含まれません)高齢者も体液量が少なくなります。
基本は体重
補液を考える上で体重をきちんと測ることは大事です。下痢の症状があり、体重が2kgに減っていたら脱水を考えるべきですし、「最近息切れが・・・」といわれて体重を測ったら、一ヶ月前に比べて+3kgで心不全気味ということもあります。
他に体重を測る意義は
・悪性疾患などで体重減少をきたし気づく
・薬物の投与量調整で必要となる→腎機能で調整する必要がある薬は原則CCr(クレアチニンクリアランス)で投与量調整を行います。CCrは年齢、Cr、体重、性別で決まる値です。また、eGFRは年齢、Cr、性別で決まります。eGFRは推定値なので、実際のGFRと乖離することがあります。筋肉量が少なくて、Crが低めの人はeGFRが過大評価されます。
体液量減少の臨床的サイン
体液量減少=脱水と呼ばれることが多いですが、体液量減少には以下の2通りの定義があります。
①Dehydration・・・自由水の減少(ICFもECFも)
②Volume Depletion・・・ECFの減少
この2つを分ける必要があるのは、細胞外液量減少には生理食塩水を、 細胞内液量減少には5%ブドウ糖液投与が基本となるためです。これは、細胞外液と細胞内液は電解質を通しにくい細胞膜で仕切られているため、電解質輸液は細胞外液にとどまるためです。
細胞外液の欠乏(=Volume Depletion)は循環動態に影響を及ぼし、 細胞内液の欠乏(=Dehydration)は血漿浸透圧(高Na血症)に影響を及ぼします。日本語ではどちらの欠乏も総称して「脱水」と総称しますが、区別されるべき異なる病態です。
正常範囲と比較して、ECFが減少している=Hypovolemiaと定義されます。
Hypovoleniaを示す検査としては、血圧が低い、尿が濃い、四肢末梢が冷たい、皮膚のツルゴールの低下、眼窩のくぼみ、腋窩の乾燥、チルトテスト陽性、爪の毛細血管症の充填時間が2秒未満、中心静脈圧の低下、レニンの亢進、hANPの低値などがあります。
体液量増加の臨床的サイン
体液量の増加=ECF増加=Hypervolemiaと捉えると
間質液の増加・・・浮腫
血管内液の増加・・・血圧上昇
と考えられます。(ただし、実際は血圧はすべてのRAA系、交感神経、ナトリウムペプチド系・・・などさまざまな要素を受けます。)
血圧は、心臓から拍出される血液量(心拍出量)と、末梢血管での血液の流れにくさ(末梢血管抵抗)によって決まります。
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
心拍出量(Cardiac Output: CO)とは、心臓が一分間に出す血液量のことで、1回拍出量×心拍数で表されます。1回拍出量(Stroke Volume: SV)は、心臓が1回収縮するときに出す血液量です。
なお、体格による違いを補正するために、心拍出量を体表面積で除した値が心係数(Cardiac Index : CI)です。(参照 フォレスター分類)
以上から 血圧=(1回拍出量×心拍数)×末梢血管抵抗
となります。
補液メニュー
・生食(0.9%生理食塩水)を点滴した際の身体の分布
→すべてECFに分布し、間質に750ml・血管内に250ml分布する。
・5%ブドウ糖を1000ml点滴
→ICFに666ml・ECFに333ml(間質250ml・血管内83ml)
・1号液1000ml点滴
(一号液は生食と5%ブドウ糖液を1:1で混合したもの)
→間質375+125ml、血管内125+41ml、ICFに333ml
・3号液1000ml点滴
(3号液は生食と5%ブドウ糖液を1:3で混合したもの)
→間質188+188ml、血管内63+63ml、ICFに500ml
いずれにせよ
・生食分はECFに分布する
・5%ブドウ糖液が自由水としてICF:ECF=2:1に分布する
ということがポイントです。
リンゲル液
上でまとめたように
「すべての補液は生食とブドウ糖の組み合わせ」に過ぎません。
しかしながら、実際の臨床現場では生食と5%ブドウ糖液で治療する人はあまり多くはありません。
理由は
①生食のみで補液すると、Clが多すぎるために、高Cl性のアシドーシスを引き起こす
②ECFはNa・Clだけで構成されているわけではない→より生理的にするためにK、Caを加えたリンゲル液が登場しました。これにバッファーとして乳酸や酢酸を加えた、乳酸リンゲル、酢酸リンゲル、さらに重炭酸を加えた重炭酸リンゲルなどが登場しました。
代表的な商品名でいうと
・乳酸リンゲル・・・ラクテック
・酢酸リンゲル・・・ヴィーンF
・重炭酸リンゲル・・・ビカーボン
となっています。
実際の補液を考える上でポイントは尿電解質をみることです。尿中Na濃度を測っておけば、尿量と掛け算することでNaの排泄量がわかるので、自分が入れたNa量を計算して、Naが身体の中にたまっているのか、それとも喪失しているのかを判断できます。
アルブミン製剤
アルブミンはECFの血管内だけに分布します。最初にも述べましたが、電解質は(血管壁は自由に通るが)細胞膜は通過できない(ECFのみに分布)、一方、血管壁をアルブミンは通ることができません。厳密に言うと5%アルブミンが血管内にとどまります。これは、血管内のボリュームを増やすのに使います。
25%アルブミンは、間質から水を引っ張ってきて浮腫を改善するために使用します。5%アルブミンとして血管内に分布するので、25%は5%になるまで水を引きつける力があるということになります。
臨床上よく使われるアルブミン製剤は、循環血漿量が大幅に減少したときに使用します。治療抵抗性の胸水、著明な浮腫でAlb2.0g/dl以下の際などに高張アルブミンを投与します。
体液量過剰のマネジメント
基本的にはECFの過剰と考えられます。
基本は減塩(6g/日程度)と安静です。安静と減塩で間に合わないときに、初めて利尿薬の出番となります。
①ループ利尿薬
ループ利尿薬には強力な利尿作用があります。投与量が閾値(threshold)を超えると、利尿作用が生じ、閾値を超えない場合は効果が出ないタイプの薬です(threshold drugと呼ばれます)
ループ利尿薬力価の換算は、ブメタニド(ルネトロン)1mg=トラセミド20mg(ルプラック)=フロセミド40mg=エタクリン酸50mgです。
静注→経口にスイッチする場合は、バイオアベイラビリティが50%なので、静注の倍の量となります。
フロセミドの作用を減弱させる要素として、腎機能低下や低アルブミンがあります。
②サイアザイド系利尿薬
トリクロルメチアジドやヒドロクロロチアジド(=フルイトラン)などが高血圧に対し使われます。
実際の体液量過剰にどのように使えば良いか?となるとループ利尿薬に上乗せして使う(ループ利尿薬単独で尿量が確保できない場合)ことになります。
③トルバプタン(サムスカ)
バソプレシン受容体拮抗薬です。尿の濃さを調整するのがバソプレシンの役目です。バソプレシンは抗利尿ホルモン(anti-diuretic hormone : ADH)と呼ばれます。ADHは、集合管にあるV2受容体に作用します。作用するとfree water(自由水)を再吸収し、その結果、尿は濃くなります。このADHの作用をトルバプタンでブロックすると尿が薄くなります。この裏返しとして、血清は高Na血症になりやすくなります。実臨床上で使われるのは、心不全による体液量過剰の場合が多いです。
心不全の状態では、うっ血しているのに、身体に水をため込む機序が活性化して、悪循環に陥っていることがしばしばみられます。この身体に水をため込む機序の一つがRAA系の亢進であり、ADH分泌の亢進です。トルバプタンは、ADH分泌の亢進に対して、ADHをブロックすることでうっ血を解除しようという治療方法です。
心不全は体液量過剰を伴うことが多いけれども、体液量過剰をマネージするだけでは不十分です。心不全の管理はStevenson/Nohria分類(うっ血と低灌流という臨床所見のみから4つのプロファイルに分類)やクリニカルシナリオ分類(血圧と病態による初期対応)を理解することが大事です。
④K保持性利尿薬
第一世代(スピロノラクトン;アルダクトン®)
第二世代(エプレレノン;セララ®)
第三世代(エサキセレノン;ミネブロ®)
→世代を経るにつれてMR(mineralocorticoid receptor)受容体に対する選択性が高まっており、その結果副作用が減っています。スピロノラクトンは利尿薬としてはNa排泄量を1-2%増やしますが、現実的にはループ利尿薬との併用となります。高血圧、心不全、原発性アルドステロン症、肝硬変の腹水コントロールの治療に用いられます。
利尿薬が不応の時は血液透析の適応となります。基準としては、高用量のフロセミド(1-1.5mg/kg)を投与しても尿量が200ml/2時間を下回れば、不応と考えられます。
参考文献
以下の教科書を参考にしました。今まで様々な電解質の教科書を読みましたが大変わかりやすかったです。