筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)は脳または脊髄の運動神経細胞が選択的に障害されることにより、全身の筋肉が徐々に萎縮し、四肢の運動障害・嚥下障害・呼吸筋麻痺を生じる進行性の疾患です。人口10万人あたり2~6人が発症します。日本で一万人以上の患者数であり、5万人以下を稀少疾患といいます。

現状ではリルゾール(グルタミン酸の興奮神経毒性を抑制)やエダラボン(フリーラジカル除去作用)という進行を遅らせる薬物はありますが、根治的な薬物治療は存在しません。

ALSは家族性(遺伝性)と孤発性に分類される

ALSは、全体の約5-10%を占める家族歴のある遺伝性ALS (familial ALS)とそれ以外の約9割の家族歴がなく発症する孤発性ALS (sporadic ALS)に分類されます。

これまでの遺伝子解析の結果、家族性ALS患者でcopper zinc superoxide disumutase1SOD1)、transacting response (TAR) DNA-binding protein(TARDBP)fused in sarcoma(FUS)heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1 (hnRNP A1)などの遺伝子に変異が同定されています。

若年性のALSでは常染色体優性遺伝形式をとるものが多いです。
(なお、若年発症ALSとは25歳未満のものを指します)

SOD1

SOD1は、最初に同定された家族性ALS原因遺伝子です。常染色体優性遺伝の遺伝形式をとり、家族性ALSの約20%でみられます。SOD1はフリーラジカルを処理する(=抗酸化)酵素の遺伝子です。ALS 患者で報告された点突然変異をマウスに導入しヒト ALS の病態の再現に成功したことから、ALS 発症に関与していることが明らかとなりましたが、そのメカニズムは十分解明されていません。
全身にユビキタスに発現する異常にもかかわらず、なぜ運動ニューロンのみにしか症状が出ないかは理由が不明です。

 TARDBP

2006年にRNA結合蛋白質(RBP)であるTDP-43がALS患者に特徴的な細胞質封入体の主要成分と報告されました。TDP-43は核に局在するRNA(ribonucleic acid)結合タンパク質で転写やRNAプロセシング(メッセンジャーRNAになる)に関与することが知られています。さらに、2008年にTDP-43をコードするTARDBP遺伝子がALS10の原因遺伝子であることが報告されて以降、 その他のRBP遺伝子の異常がALSの原因遺伝子・疾患修飾因子として相次いで報告され、RNA代謝異常の側面もALSの病因として推察されています。FUSやhnRNP A1(不均一核リボ核タンパク質)もRNA結合タンパク質であり、その遺伝子変異もALS原因遺伝子として同定されています。

FUS

FUS蛋白質は転写・ RNAプロセッシング・DNA修復などに関与するとされるRNA結合蛋白質です。 FUS蛋白質は本来、核内輸送受容体により主に核に局在しますが、 家族性ALSにより見出された変異は核輸送受容体による核局在を破綻させることが知られています(FUSのmislocation、すなわち核から細胞質へ局在が変化→細胞質での機能獲得性および核における機能喪失性の病態が想定されています。これはRNA結合タンパクで核内移行ができないためと考えられます。)。
浸透率(家系内において病気に関係する「病的変異」の遺伝型を有している者が症状を呈する割合)はほぼ100%とされます。

若年発症するタイプはde novo mutationが多く、しばしば近位筋優位の筋力低下で発症します。
mental retardationやLD(learning disability 学習障害)も多いです。
女性に多いとされます。下位運動ニューロン徴候が症状のメインです。

(de novo mutationかどうかは両親を調べないとわかりませんが、変性疾患は発症前診断をしません)

ALSと認知症

SOD1では認知症を合併することは稀です。
C9orf72、FUS、TDP-43は認知症を合併します。

遺伝子変異の頻度

欧州とアジアでは主たる ALS の遺伝子変異の頻度に差異が認められます。
欧州では、C9orf72(chromosome 9 open reading frame 72)変 異(6 塩 基(GGGGCC)繰り返し配列の異常伸長)が最多で、次いで SOD1、TDP43、FUS 変異の順です。
一方アジアでは、SOD1 変異が最多で、次いで FUS、C9orf72、 TDP43 変異の順になっています。

まとめ

ALSではRNA結合タンパク質のなかからALSに関連するものが多数病因遺伝子として同定されており、細胞変性の分子病態としては、RNA代謝の障害が発症に重要と考えられています。

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投稿者

古田 夏海

群馬県内の総合病院で脳神経内科医として勤務しています。

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