目次

低張性脱水と高張性脱水

低張性脱水は、体液量が減少しているのに加えてナトリウム濃度が低いという状況です。
高張性脱水は、体液量が減少しているのに加えてナトリウム濃度が高いという状況です。
言い換えると
低張性脱水=ナトリウムが水より多めに失われた
高張性脱水=水がナトリウムよりも多めに失われた
となります。

まずは体液量を判断

・脱水でNa正常範囲→水分とNaを同時に生食で足せば良い

・体液量過剰(溢水)で高Na血症→利尿薬で水分を抜きつつ(体液量を減らす)、5%ブドウ糖液でNaを希釈する。(溢水で高Na血症はまれ)

低Na血症の臨床症状

臨床で大事なのは、吐き気・不穏・意識障害があった場合には、低Na血症があるかも?と考え、検査を出すことです。Na濃度異常などの電解質異常をみたばあいには、必ず尿の電解質・浸透圧をみることが大事です。
ここまでをまとめると

・体液量の把握(溢水/)
・Na濃度の把握
に加えて、尿電解質をみることによって、Naが身体から出ている状態や、水の再吸収の状態を確認できます。

低張性脱水のマネージメント

ここでは体液量が減少している場合を考えます。
・嘔吐や下痢のシチュエーションで脱水
・医原性

血清Na濃度が上昇した場合に、血液を薄めるため、腎臓の集合管からH2Oを再吸収しますが、もう一つ重要なシグナルがあり、それは循環血漿量が低下した場合です。つまり脱水になるとADHの分泌は亢進するのです。

例として マラソンで汗をたくさんかく→循環血漿量↓→ADH分泌亢進
こういうときに真水をガブガブ飲むと、身体のNaはどんどん喪失しているのに、真水だけが再吸収されていき、その結果低Na血症になります。

同様に下痢や嘔吐を来しているのに、低張液(たとえば3号液)を補液している場合、下痢や嘔吐で有効循環血漿量が少ない状況で、低張液を入れると、血管内に残るNaよりもH2Oが相対的に多いため低Na血症となります。

高張性脱水のマネージメント

水ばかり抜けてしまった脱水です。高Naだからといって、身体のNaが過剰になっている訳ではありません。尿崩症などはADHが不足する病気なので、高張性脱水をきたします。

基本的な対処法は、生食がメインになります。純粋に自由水だけが抜ける状況ならば5%ブドウ糖液となりますが、脱水である程度Naを補充する必要があるので、この場合は生食を使うことが多くなります。

SIADH

体液量は正常範囲という前提で低Na血症を考えるときにはまず尿検査をみることが重要です。

例として血清Na=120mEq/Lだったとして、尿浸透圧(uOsm)が100mOsmとします。sOsmはNaのおよそ2倍なので、120×2=240mOsmとなり、尿の方が薄いので(ADHが出ていないので)、血清のNaはだんだんと回復しています。(例:心因性多飲)

では、血清Na=120mEq/Lだったとして、uOsmが500mOsmとします。尿の方が血清よりも浸透圧が高い、これは非常に困った状態です。血清が薄いのにもかかわらず、尿が濃くなっている(ADHの作用で、自由水の再吸収が行われてしまっている)ような病的な病態です。ADHは上で述べたように、循環血漿量の低下とsOsmの上昇でADHが分泌されます。しかし、これらの状態ではないのにADHが分泌されている状態、これをSIADH(syndrome of inappropriate serection of ADH バソプレッシン不適切分泌症)と呼びます。ADHはsOsm(血清浸透圧)が低い状態では分泌されないので、その状態でADHが出ていたら異常です。
このような病態に出会ったら、まず尿の浸透圧および電解質(Na、K、Cl)、ACTH、コルチゾール、fT3、fT4、TSHをチェックします。また内服薬もチェックします(薬剤性のSIADHは多いです。カルバマゼピン・シクロフォスファミド・SSRI・三環系抗うつ薬など・抗痙攣薬・アミオダロン・NSAIDsなど)。これは原因検索を行うためで、ACTH・コルチゾールが低いような副腎不全(低Na+高K血症、血圧が低い、低血糖、好酸球が多いなどの所見がみられます)の場合はステロイドの補充が必要になりますし、甲状腺機能異常でもNa血症が起こることがあります。
髄膜炎・悪性腫瘍・肺炎や気胸などの肺疾患、尿閉による膀胱の伸展などでもSIADHを起こすことが知られています。
症状が軽い低Na血症を焦って治療しないことがポイントです。急いで治療するべきは痙攣・意識障害などの重篤な病態の場合です。

治療は①水制限(15mL/kg/日程度)②補液による補正(尿電解質(尿Na)よりも濃くないとすべて尿中に排泄されてしまうため、3%食塩水などを用います。)

補正は4-6mEq/L/日がベスト、8mEq/Lを超えてはいけません。急速に補正すると、高浸透圧性脱髄症候群(ODS)をきたし、不可逆な障害を起こすことがあります。

CSW

CSW(cerebral salt wasting/ central salt wasting: 中枢性塩喪失症候群)という概念が世の中に存在します。尿中のNa排泄が亢進し、ECFが減少して低Na血症と脱水症をきたした状態をこう呼びます。SIADHとの違いは、所見上脱水が明らかな場合にはCSW、正常範囲の場合にはSIADHとなります。
他の鑑別が必要な概念として、鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症(MRHE: Mineralocorticoid-responsive hyponatremia of the elderly)があります。加齢などに伴い、Naの再吸収機能が落ち、Na排泄が増えてhypovolemiaの低Na血症になります。

中枢神経から液性因子が出てNa排泄を亢進させているのか、腎臓自体の問題でNa排泄が増えているのかを判断できないために、MRHE、CSW、SIADHのいずれであっても体液量を把握して、尿電解質をみて、補液を組み立てるだけです。

高Na血症

高Na血症ではsOsmがあがることにより、強烈な口渇が生じ飲水をするので簡単には高Na血症になりません。水が飲みたいと訴えられない人、交通外傷後などで口渇の中枢が障害されている人などです。治療はNaと多めの自由水を入れることになります。

参考文献

今回も以下の教科書を参考にしました。

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%81%A7%E3%82%82%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E6%B0%B4%E3%83%BB%E9%9B%BB%E8%A7%A3%E8%B3%AA-%E9%95%B7%E6%BE%A4-%E5%B0%86/dp/4498123883

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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