目次
緊急性の高い高K血症
まず心電図
血清Kが上がると、T波が尖ってきて、PRが伸びて、P波がなくなり、QRSが広くなってきて、最終的には心室細動になります。
高K血症のマネージメントは、まずは即効性のある初期治療として
①グルコン酸カルシウムの静注(5-10%のカルチコール10mlを2-3分かけて入れる)
汎用されるのは8.5%グルコン酸カルシウム(10ml)です。ただし効果の持続は30-60分程度です。
②グルコース-インスリン療法(GI療法)
・レギュラーインスリン(ヒューマリン®R)10単位を10%ブドウ糖液500mlに混注して、60分以上かけて静注
・レギュラーインスリン10単位静注後に50%ブドウ糖液50mlを静注
というレジュメがあります。これらは本質的には、インスリンの作用で血中のKを細胞内に押し込むことを期待しており、インスリンの副作用で低血糖になることを、糖を入れることで補正している、ということになります。
グルコン酸カルシウムとGI療法で急場をしのげたとしても30-60分程度です。この間に「Kが高くなった原因」と「今後Kが下がっていくか」を検討します。
Kが身体から出るところは、主に尿です。よって
・尿が今後出るかわからない(透析患者や脱水に伴う急性腎障害)→透析のスタンバイ
・尿が出ている場合→バイタルが安定している場合は、尿の量を増やすために、補液をしながらフロセミドの静注を行います。
高K血症の危険因子
基礎疾患として・CKD患者 ・心不全患者 ・RAA系阻害薬を服用している患者は高K血症の頻度が高くなります。
他に注意すべき内服薬としては ・NSAIDs(腎血流を減らす)・ST合剤
他には、体格の小さい人は要注意です。Kは細胞内に含まれるため(体内だと主に筋肉)、身体内のKのプールが小さいため容易に高K血症になりやすいからです。
外来での高K血症マネージメント
①RAA系阻害薬の中止
(代わりにカルシウム受容体拮抗薬投与を検討)
②ループ利尿薬
体液量が正常~過剰のときは、身体からKを追い出すために、ループ利尿薬を投与することが多いです。(体液量把握のため、体重の確認や胸部X線を確認します。)
③K吸着薬
食物中のKの吸収を抑えるためにK吸着薬を投与します
ポリスチレンスルホン酸カルシウム
・カリメート®酸 15-30g 分2-3
・カリメート®ドライシロップ 15-30g 分2-3
・カリメート®経口液 15-30g 分2-3
・アーガメイト®ゼリー25g 1-3個 分1-3
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
・ケイキサレート®散 30g 分2-3
・ケイキサレート®ドライシロップ 30g 分2-3
炭酸水素ナトリウム(メイロン)は、アシドーシスが存在する場合には、アシドーシスよりは正常範囲の方が良いので補正しておきます。目安としてはHCO3–<22mmol/Lのときに考慮します。(1~3g 1日3回)
腎機能障害がある患者さんでは、クロレラやスピルリナなどの健康食品、昆布などのKを多く含む食品の摂取に注意は必要です。腎機能が正常な人はK制限の必要はありません。
低K血症
緊急性の高い低K血症は、下記の症状を伴う場合です
・不整脈
・呼吸筋麻痺(ひどい呼吸筋麻痺などの状態で来る場合有り)
血清Kを緩やかに補正する必要があります(塩化カリウムの静注は心停止を引き起こすので禁忌)
なるべく経口で補正する必要がありますが、経口投与できない場合などは静注で補正します。
一日の補正量の最大値は100-120mEqとされているので、現実的には5mEq/時となります。高濃度Kでは、血管痛がみられることもあります。
例;生食500ml+KCL20mEqを一時間以上かけて
経口K製剤
塩化カリウム
・スローケー 4T分2(=32mEq分2)
・塩化カリウム「フソー」「ヤマゼン」2-10g/日(1g中13.4mEq)
・ケーサプライ錠600mg 4T分2(=32mEq分2)
L-アスパラギン酸カリウム
・アスパラカリウム錠300mg 3-9T分3(5.4-16.2mEq 1T中1.8mEq)
・アスパラカリウム散50% 1.8-5.4g/日(1.8-5.4g分3 5.22-15.66mEq分3 1g中2.9mEq)
グルコン酸カリウム
・グルコン酸K錠5mEq 6-8T分3-4(30-40mEq 1T中5mEq)
・グルコン酸K細粒4mEq/g 7.5-10g/日(30-40mEq 1g中4mEq)
Kを補充する場合には必ず尿量を確認する必要があります。何らかの理由で尿が出ない場合には、突然Kが上がることがあります(補充するとまずKが細胞内に入りますが、飽和すると血清のKが急に上がるため)。なので尿が出ない状況のときには特に注意が必要です。何らかの理由で腎臓からのK排泄が亢進している状況(ループ利尿薬使用中・原発性アルドステロン症など)では、どんどん補充しても腎臓から排泄されていくので心配ありません(Kがゆっくりとしか上昇しない)
低K血症の危険因子
大きく病態を分類すると①Kの摂取不足 か ②Kの喪失 ということになります。
例として、原発性アルドステロン症を挙げます。副腎からアルドステロンが過剰分泌された結果、腎臓の集合管でMR受容体に作用し、Kを尿に排泄し、その代わりにNaを身体に取り込んで、体液量過剰による高血圧を引き起こします。したがって臨床上は、血圧が高く、血清のKが低く、尿中のKが高ければ原発性アルドステロン症を疑う必要があります。さらにネガティブフィードバックでレニンが抑制されるので、高血圧・低K血症・低レニンで精査目的に専門医紹介となります。
K排泄を亢進させる薬には、臨床上は圧倒的にループ利尿薬です。Na-K-2Clのチャネルをブロックすることにより尿を出します。
低K血症を避けるべき病態
・肝硬変→低Kでは腎臓のアンモニア産生が増加し、肝性脳症のリスクがあがります。K保持性の利尿薬が好んで使われます。
・心不全→低K血症は不整脈を引き起こしやすくなるので、Kを正常範囲にとどめるようにします。
・ジギタリス製剤内服中→低Kはジギタリス中毒を悪化させるので注意が必要です。
低Na血症と低K血症を合併したときのKの補正はとてもゆっくり行う必要があります。
Edelmanの式は
血漿Na濃度=(体内総Na+体内総K)/総水分量
となっており、Naの濃度などにKが重要な働きをしていることがわかります。Kの補正でNaがあがるので注意が必要です。
酸塩基平衡とカリウム
アルカローシスではKは下がり、アシドーシスではK+は上がります。
(イメージとしては、血中のH+が多いアシドーシスでは恒常性を保とうとし、細胞内にH+を取り込んでK+を血中に出す。アルカローシスはその逆。)
注意すべきは、糖尿病性ケトアシドーシスの治療で、アシドーシスの改善やインスリンの作用で、Kが下がって低Kを起こしうるのでKの補充も同時に行う必要があります。