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高Ca血症

身体の中でCaを最も多く含んでいるのは骨です。食事からCaを吸収し、骨と血中の間でCaのやりとりを行い、尿中に排泄することで一定値を保っています。
腎臓で活性化されたビタミンDは、腸管からの吸収↑、骨からのCa吸収↑、腎臓からのCa排泄↓などにより血中のCaを上昇させます。
また、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone : PTH)の基本的な働きはPを尿中に排泄させることです(Phosphate Trash Hormoneと覚える)。PTHには他にも、腎でのCa再吸収↑、ビタミンDの産生↑などの作用があり、これらもCaを挙げる方向に働きます。

臨床上一番多く出会うのは上記のCa濃度を上昇する成分を含んだ薬(ビタミンD・Ca製剤など)を過剰に投与した結果、高Ca血症になっているケースがほとんどです。

高Ca血症では尿の濃縮力障害が起こり、薄い尿が出ることにより、腎前性の腎不全をきたすことがありますし、慢性の高Ca血症では腎臓の間質にCa塩を沈着させて間質性腎炎を引き起こすことがあります。

対処法は薬剤の中止と補液です。補液は脱水の度合いによって行います。

他にはサイアザイド系の利尿薬も尿中Ca排泄を抑制するため、これらの薬を使う場合には季節に一回程度のCaをチェックするのが推奨されます。

他には、悪性腫瘍に伴う高Ca血症が有名です(別名 malignancy associated hypercalcemia:MAH)。PTH様の作用があるホルモン(PTH-related protein : PTHrP)を産生する腫瘍や、ビタミンDを作る悪性リンパ腫などが存在します。

他には(主に転移した)腫瘍細胞が局所で骨吸収を行い、高Ca血症を起こすことも知られています(乳癌・多発性骨髄腫・前立腺癌など)。この場合には、上記の体液量減少のマネージメントに加えて病的な骨吸収を止める必要があります。

・カルシトニン製剤
エルシトニン®40単位 静注(ただしすぐ効かなくなる)

・ビスホスホネート
ゾレドロン酸(ゾメタ®4mg) (15分かけて静注、保険適用は悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症のみ)

・RANKLモノクローナル抗体
デノスマブ(プラリア®、ランマーク®)

あと有名なのはサルコイドーシスに伴う高Ca血症です。

臨床で意外に出会うのが、無症候性の高Ca血症から原発性副甲状腺機能亢進症が見つかるというケースです。PTHは生理的にはCaの低下をシグナルとして、血中に放出されカルシウム↑リン↓となるホルモンですが、腺腫となり自律的にPTHを出すような場合があります。この場合は、Caの上昇に加えてPが下がります。尿中のCaの排泄量のチェック、骨粗鬆症の状態の評価、エコーや CT による腫瘍の局在の確認、MIBIシンチによる腺腫の局在の確認などにより確定診断していくことになります。治療法はシナカルセト(レグパラ®)やエボカルセト(オルケディア®)の内服や手術による腺腫の摘出ですが、 M E N 1型が隠れている可能性もあるので、内分泌専門医へのコンサルタントも必要です。年齢不相応な骨粗鬆症や繰り返す Ca結石の時にCa濃度を測って、副甲状腺機能亢進症を探すことになると思います。最後に HTLV-1が多い地域では、HTLV-1に伴う高Ca血症があります。

高Ca血症

低カルシウム血症鑑別には病歴と薬歴が極めて重要です。最も多く遭遇する低Ca血症の原因は慢性腎不全です。腎不全が進行すると、ビタミン D の活性化が低下することによって、低Caが引き起こされます。この場合の治療はビタミン D の補充となります。
他の原因として、新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma:FFP)を大量に投与した際に生じる低Ca血症 です。FFPには抗凝固薬としてクエン酸ナトリウムが含まれており、このクエン酸が血中に入るとCaイオンと結合することにより低Ca血症を引き起こすことが知られています。そのため血漿交換時などに血圧を測っていると、患者さんから「手が痺れます」と訴えられることがあるので、血漿交換をオーダーする際にはグルコン酸カルシウムを補充補給するようにオーダーしておきます(グルコン酸Ca1Aを10分かけて静注)。
それ以外は、PTHが分泌されない、あるいは分泌されているが作用が弱いなどといった珍しい病気です。PTHが分泌されない状況は、甲状腺全摘で副甲状腺も摘出した場合などが考えられます。先天性の低形成や欠損の特発性副甲状腺機能低下症や偽性副甲状腺機能低下症(Ⅰa型、Ⅰb型、Ⅱ型と分類される)は極めて珍しい病気です。
上で述べたように高Ca血症治療薬や骨粗鬆症治療薬を使うことで思いもかけず低Ca血症になることがあります。ビスホスホネートやデノスマブなどを使わずにはきちんとCaチェックを行う必要があります。加えて、PTHに作用する薬の登場もあり、薬剤性に低Ca血症を起こす頻度が高くなっています。慢性腎不全の患者に使われる、副甲状腺のCa受容体に直接作用してPTHを抑制するシナカルセト(レグパラ®)、エテルカルセチド(パーサビブ®)、エボカルセト(オルケディア®)などは低Ca血症を引き起こすことがあります。これらは透析患者の二次性甲状腺機能亢進症に対して使われることが多いです。
最後に低Mg血症は低Ca血症を引き起こすことがあるので、Mgのチェックを行い、低い場合には補充をします。

参考文献

今回も以下の教科書を参考にしました。https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%81%A7%E3%82%82%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E6%B0%B4%E3%83%BB%E9%9B%BB%E8%A7%A3%E8%B3%AA-%E9%95%B7%E6%BE%A4-%E5%B0%86/dp/4498123883

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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