目次

はじめに

ベーチェット病は皮膚、粘膜を中心に急性炎症を反復する全身性疾患です。主症状(眼症状、再発性アフタ性口内炎、皮膚症状、外陰部潰瘍)と、副症状(関節炎、副睾丸炎、消化管病変、血管病変、中枢神経症状)が単独、複数で出現消退をくりかえします。

好中球の機能亢進、T細胞の異常反応、血管炎、凝固亢進による血管障害がみられます。

疫学

ベーチェット病はイスラエルやイラン・イラクなどの中近東から、中国・韓国・日本にかけてのシルクロード沿いの国や地域に非常に多い病気であることから、「シルクロード病」ともよばれます。

好発年齢は20~40歳、男女比は約1:1です。重症例は男性に多いとされます。

明らかな病因は未だ不明ですが、遺伝的要因環境因子が関与するといわれています。

主な遺伝的素因であるHLA-B51では有意な相関(約60%)がみられます。保有者が本症に罹患する相対危険率は6.7という報告があります。

環境要因としては、たとえば虫歯・扁桃炎の既往が挙げられます。虫歯を抜いたときや扁桃炎の時に、ベーチェット病患者のリンパ球が健常人では反応しないような少量の微生物に対しても反応すると考えられ、Tリンパ球の過敏反応性がベースにあり、そこから産生されるサイトカインが好中球の異常を惹起して、炎症を引き起こすと考えられています。

近年の本邦では、重症病変が減少傾向で、口腔内をはじめとした衛生状態の改善が免疫応答を変化させたためではないか、との仮説があります。

神経ベーチェット病の分類

大きく「急性型」と「慢性進行型」に分けられます。

急性型では、発熱や頭痛を伴った髄膜脳炎の型をとりますが、片麻痺や脳神経麻痺など脳局所徴候を来すことが多いです。MRIのT2強調像やFLAIRで高信号を呈します。髄液検査では細胞数と蛋白の上昇とIL-6の著明な上昇を伴います。

ステロイドによく反応しますが自然軽快することもあります。シクロスポリンで誘発されることがあります。

慢性進行型はステロイド抵抗性で持続進行の経過を辿り、精神症状(認知症、人格変化)、体幹失調、構語障害などの症状やMRIで中脳から橋にかけての脳幹や小脳の萎縮などが見られます。麻痺はみられないことが多いです。急性型神経型ベーチェット病の発作出現後数年して精神症状などが徐々に出現することがあります。HLA-B51陽性率が高く(約9割)、男性、喫煙者が多い。髄液中のIL-6が数ヶ月以上持続して高値となります。

急性型とは異なり、髄液検査で細胞数が正常な症例も珍しくありません

ガイドラインに基づく治療方針

急性型の治療ガイドライン

・急性型の40%は再発し、大発作では後遺症を残すことがある。慢性進行型は進行すると予後不良である。神経型ベーチェット病の診断基準を満たすものは中等度以上の中枢神経病変に含める。
シクロスポリンが使用されている場合は中止する。→急性型の三分の一の症例が発症時にシクロスポリンを内服しているというデータがあります。
初回発作が生じたらすぐにコルヒチン(1-2mg/day)を開始し5年間は継続する。
・MTX、シクロフォスファミド、AZPの再発予防効果はコルヒチンより劣ると考えられ、これらの積極的投与は行わないことを提案する。
・急性期はPSL 20mg/日以上を投与し効果不十分ではステロイドパルスを含む大量投与を行う。→急性型神経ベーチェット病の発作は、中等量以上のプレドニゾロンを使えば、だいたいの症例は高信号域が消えて良くなります。
・急性期の治療でPSL中等量以上が効果不十分なときインフリキシマブ併用を提案する。
・コルヒチンを使用しても再発する場合はインフリキシマブを考慮することを提案する→ステロイド漸減時の発作の予防については、コルヒチンを使えば多少抑制できます。
・急性型症状が治まり検査所見が改善しPSL10mg以下になったら神経学的所見と頭部MRIを評価、脊髄液IL-6を測定し17pg/mL以上であれば慢性進行型を疑う→急性型では回復期においてIL-6の数値は下がります。

慢性進行型の治療ガイドライン

・先行症状としての急性型症状の発現は約90%あるが、必発ではない。
・慢性進行型の治療はできる限り髄液IL-6を17pg/mL以下に下げるよう努力する。
まずMTX単独で治療し(最大16mg/週まで増量)、神経症状改善なく髄液IL-6が17pg/mL以下にならない場合は速やかにインフリキシマブ(5mg/体重1kg、 0、2、6週、以降8週間隔。効果不十分では10mg/kgに増量可)を導入する。(中等量以上のステロイド・アザチオプリン・シクロフォスファミドは推奨されない。また、シクロスポリンは神経ベーチェット病を誘発するため使用してはならない。)
・慢性進行型の治療は髄液IL-6低値維持と症状進行がなく、MRIで脳幹などの萎縮の進行がないことを目標とする。
・治療内容が固まるまで頭部MRIや髄液IL-6検査は適宜行い、その後MRIは少なくとも年一回、髄液IL-6もできる限り年一回測定する。

参考文献

ベーチェット病診療ガイドライン2020