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sagging eye syndromeとは
sagging eye syndromeは2013年に初めて報告された、我が国ではまだ浸透していない疾患ですが、高齢者の複視の原因の一部はこのsagging eye syndromeと考えられています。
saggingの意味ですが、重みで下がる、たわむ、たるむを意味するsagの現在分詞です。
何がたわむのかというと、目を動かす外眼筋のまわりの眼窩結合織がその原因とされます。
高齢者の眼球運動を診察すると、眼球運動が完全ではなく、わずかに制限があることをしばしば経験します。特に眼球の上転が一番顕著です。その原因は、内直筋・外直筋の結合組織が加齢性に下垂することが原因ということをMRI撮影で確認した報告があります。
発生機序
外直筋の結合組織はコラーゲンを多く含むため、加齢と共に変性し、菲薄化し、重力により下垂しやすいです。
つまり外直筋の結合組織が「sag」してsagging eye syndromeを引き起こします。
外直筋の結合織が下垂すると、それに伴って外直筋と上直筋との間の結合組織、いわゆるLR(lateral rectus)-SR(superior rectus)バンドが引き伸ばされて、さらに進行すると断裂し消失します。
LR-SRバンドの変化が左右対称だと開散不全型内斜視を引き起こし、左右非対称であると外方回旋を伴う上下斜視を発症します。
診断
高齢発症の開散不全型内斜視、もしくは外方回旋を伴う上下斜視をみたときは本症を疑います。
本症では眼窩結合織以外にも眼周囲の軟部組織の変化を呈しているため、特徴的な顔貌を呈します。
baggy eyelid(だぼついた眼瞼)、superior sulcus deformity(上眼瞼のくぼみ変性)、腱膜性眼瞼下垂などの外眼部異常も随伴するのが特徴です。
診断にはMRIが有用です。通常外眼筋の炎症を鑑別するため脂肪抑制で撮影することが多いですが、脂肪抑制をすると結合織が映りません。このため眼窩MRI冠状断でT1強調画像もしくはT2強調画像(脂肪抑制無し)での撮影条件が必要です。
鑑別は甲状腺眼症などがありますが、通常外眼筋の腫大を認めます。
sagging eye syndromeの治療
プリズム眼鏡や眼鏡で補正が困難な場合は斜視手術を行います。