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指定感染症になっている

新型コロナウイルス感染症は、2019年12月中華人民共和国湖北省武漢市において確認され(武漢の海鮮卸売市場で取り扱っていた野生動物からヒトに感染したと考えられています。豊洲の約2倍の規模をもつ市場のようです。何の動物かはわかっていません。)2020年1月7日には原因病原体がコロナウイルスであること、新型コロナウイルスのゲノムの全遺伝子配列が決定されました。コロナウイルスのゲノムは約30キロの塩基(3万個のA・U・C・Tという塩基)で構成されています。この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染は世界に拡大し、世界保健機関(WHO)は、2020年1月31日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」という緊急事態宣言を、3月11日パンデミック(世界的な大流行)を表明しました。(緊急事態宣言は2009年の新型インフルエンザで最初に指定されました。)
日本国内では、1月16日に初めて患者が報告され、2月1日に指定感染症に指定されました。
指定感染症とは、感染症予防法での分類のうち1・2・3類に該当する感染症と、新型インフルエンザを除き、1・2・3類と同じくらい対応が必要だと考えられている感染症が該当します(現在「2類感染症相当」として扱われています)。今回のコロナウイルスによる新型肺炎はこの形式で指定感染症になりました。指定感染症にすることで、指定医療機関での診療が必要になり、法的な拘束力(患者の強制的な入院および就業の制限などの措置)および医療費の公的負担が可能となります。

上で述べたように、感染症法として扱われることになったことから公的機関が行う行政検査になってしまいました。病院から保健所に問い合わせを行い、保健所が検査の適応があると判断すると、行政機関で検査します。つまり、行政機関で検査することにより限られた機関で限られた検体数しか検査できないという事態になってしまいました。そこで3月6日から保険診療で検査ができるようにして、検査会社で検査を行えるようにして、検体数の増加を図っています。


7つ目のコロナウイルス

コロナウイルスの名前を一気に有名にしたのは、2002年に中国で発症し、全世界に感染拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)でした。その後2012年にMERS(中等呼吸器症候群)が発生し、コロナウイルスは呼吸器疾患を起こす代表的なウイルスとして認知されました。
日本人はSARSとMERSの感染者をだしていません。
風邪のウイルス4つが知られており、新型コロナウイルスは7つ目のコロナウイルスとして認識されることとなりました。

ウイルスの名付け親

①国際ウイルス命名委員会(ICTV: International Committee on Taxonomy of Viruses)

ICTVが定めた新型コロナウイルスの名称は、SARS-CoV-2です。
ウイルス学的にはSARSの延長上にあるウイルスになっていることがわかります。CoVはcoronavirus(コロナウイルス)を略した名称です。

②WHO

一方、ウイルスによって起こる病気の名前(=疾患名)はWHOによって定められています。Corona Virus disease 2019から、COVID-19になりました。

肺のACE2レセプターを介して感染

ウイルス感染の第一歩はレセプター(受容体)への結合です。ウイルス表面の蛋白質(スパイク蛋白質)は鍵、細胞表面の蛋白質は鍵穴に例えられています。鍵と鍵穴がマッチしたときに、扉が開き感染が成立します。SARSコロナウイルスと新型コロナウイルスはACE-2(アンギオテンシン変換酵素Ⅱ)をレセプターとして使っています。

感染するか否かはレセプターという蛋白質の有無で決まり、ヒトと動物で共通にあるレセプターを使うウイルスは人獣共通ウイルス感染症を引き起こしてしまします(例としてインフルエンザウイルスは細胞表面のシアル酸、HIVはTリンパ球のCD4などをレセプターとして使い、細胞に侵入します)

接触飛沫感染

飛沫感染は、くしゃみなどで感染する様式です。
ウイルスがくしゃみの中に含まれている水分に覆われていて、その直径が5μm以上のものを飛沫と呼びます。新型コロナウイルスの直径は100nm(=0.1μm)です。飛沫は新型コロナウイルスの直径の約50倍以上の水滴と言えます。
一方、水分がなくウイルスだけになった状態もしくは直径5μm以下のものを飛沫核と言って、空気感染を起こします。
くしゃみをしたときに飛沫は水分を含んでいるために2-3メートルしか飛ばず、地面に落下していきます。一方、空気感染するウイルスは空気中を漂うこととなります。

「エアロゾル感染」という報道がしばしばなされていますが、エアロゾルは直径1nm~100μmまで、5桁の幅を持ちます。つまりは空気感染と飛沫感染の総称のように使用されているようです。
しかしながら、エアロゾルと空気感染は違います。エアロゾルは挿管などの手技で発生します。

現状では、新型コロナウイルスが空気感染する可能性は低いと考えられています。

感染予防

標準予防策が土台となります。常に行う必要があります。
汗以外の体液がつくときは防護服(手袋・ガウン)、つかない時は手指衛生を行います。

マスクは飛沫が口や鼻に浸入するのを防ぐのとともに、くしゃみをしたときに飛沫が拡散するのを防ぐことができます。さらに、気管の乾燥を防ぎ、絨毛運動を活性化させることにより異物を排除しやすくします。不織布(ふしょくふ)のマスクにはフィルターが入っており、ウイルスの飛沫を99%カットできることが確かめられています。したがって、不織布の穴が大きいのでウイルスは簡単にマスクを通過できるというのは誤りです。

消毒薬の有効性については、消毒薬のアルコールとしてエタノールがよく使われています。(エタノール濃度が70%の時にエタノールと水分子の割合が1:1になるため、エタノールの疎水基が平面に並ぶことができるので最も広い疎水面を作り出せる)
コロナウイルスの粒子は、蛋白質・糖質・脂質で構成されるエンベロープがあります。アルコールは脂質に作用してエンベロープの構造を破壊します。(アデノウイルスのようにエンベロープがないウイルスには効果がありません。)
次亜塩素酸は蛋白質の変性を起こすなどの作用機序が有り、消毒薬として用いられます。

基本産生数(R0)とは

それぞれのウイルスによって感染させてしまうおおよその人数がわかっており、基本産生数(R0といいます。

新型コロナウイルスの基本再生産数は1.3~2.5、麻疹は12ー18、SARSは3、インフルエンザは1~2とされます。
SARSではもっと多くの人に感染させてしまう(>10人以上)感染者の存在が明らかになっており、スーパースプレッダーとよばれます。

潜伏期間

潜伏期間は2ー7日(平均4日)とされます。インフルエンザよりは短いです。
最大14日を見積もり、2週間みれば発症者がわかります。

臨床像

8割は軽症(軽症のまま発症から一週間程度で治癒)で、重症化(1週間~10日症状が続き肺炎を起こし呼吸困難→入院)は2割とされます。
14%で重症化して、酸素が必要になり、5%が 集中治療 →うち半数程度(2-3%で死亡・インフルエンザと比べるとかなり多いです)が死亡します。

ダイヤモンドプリンセス号では、17%でウイルス陽性であったが、半数で診断時は無症状であったことが報告されています。

我が国の死亡率は0.7~2%とされ、80歳以上の高齢者では15%程度、70歳以上では8%とされます。

死亡者の多くが高齢者、心疾患や糖尿病を有しているとされます。妊婦は重症化リスクとはいわれておらず、垂直感染は今のところ言われていません。

初期 症状は4割で発熱あり(肺炎があれば9割に発熱あり)、咳81%、息切れは31%と呼吸器症状が主体です。筋肉痛や倦怠感を認めることもあります。喀痰は27%と目立ちません。
鼻汁や消化器症状は稀であるが少数ではみられます。

以上より初期には感冒(かぜ)と区別がつかないと考えられます。
(風邪なら多くは3-4日で直ります)
接触歴がない場合には経過が感冒より長いことで疑うしかありません。
(7日で収まらないなら普通の風邪ではありません/この時期に肺炎が顕在化してきます。)

重症化のパターンとしては、発症から7日くらいの経過で症状が増悪し、数日のうちにARDSになることがあげられます。肺炎の回復には2週間程度、重症なら3ー6週間を要するとされます。

免疫不全は発熱帰国者外来で早めに相談する必要があります。

検査所見

血液検査

WBC(白血球)は90%で正常~低下(初期からWBC上昇していると、あまりCOVID-19らしくなく、普通の細菌性肺炎を考えます。白血球がCOVID-19ではあまり上がらない、というのがポイントです)(WBCも重症患者症例では上がるとされます)
CRPは多くは上昇し5程度(20とかあるとあまりCOVID-19らしくありません)
プロカルシトニンは6%でしか上昇しないとされ、除外診断に有用な可能性があります。
LDHもあがりますが間質性肺炎でも上昇します。軽度の肝障害は 35%に認め、腎障害は初期には少ないとされます。

画像検査

胸部Xpは初期には感度が高くなく、10日くらいではっきりしてきます。CTは初期から病変がみられることもあります。初期CTの典型像は下葉優位に胸膜直下に両側すりガラス陰影(血管影がみわたせる)や斑状陰影あり(非典型例も多く、片側 浸潤影などもあります)
鑑別として胸膜直下がスペアされるのはニューモシスチス肺炎などがあります。
胸水やリンパ節腫脹 胸膜肥厚はまれな所見です。

PCR検査

咽頭よりも鼻咽頭の方がウイルス量が多いとされます。(鼻腔に感染すると、鼻腔の上側にある嗅細胞が障害され、においがわからなくなります。味覚と嗅覚は密接な関係があり、味覚にも問題が出ることがあります。)
PCRは鼻咽頭スワブまたは喀痰をエアロゾル対策のもとで採取します。
当初はコンベンショナルPCRという時間がかかる方法を採用していましたが、現在はリアルタイムPCRという短時間で簡便に検査できる方式に切り替えられています。

参考文献

https://www.jamas.or.jp/special/covid19/

ここに文献がまとまっています。

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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