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衝動制御障害(impulse control disorders:ICD)とは

衝動制御障害 (impulse control disorders : ICD) とは、ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)を多く取り過ぎることで、やたらとギャンブルを行うといった病的賭博、性欲がやたらと増す性的欲求欲求の亢進、過食などの問題行動を起こすことも指摘されています。

ICD発症機序

ICD発症の背景としては、中脳辺縁系におけるドパミンD3受容体の過剰刺激が機序の一つとして考えられています。

ドパミンアゴニストは、ドパミンの代わりにドパミン受容体を直接刺激する薬物ですが、ドパミン受容体にはD1-D5までの受容体が存在します。D3受容体への親和性が高いドパミンアゴニストほどICDを生じやすいことが知られています。

ICDの症状

パーキンソン病でみられるICDは、病的賭博、性欲充進、買いあさり、むちゃ食い、pundingが知られています。

病的賭博
家庭的・社会的活動の継続に困難を生じてもなお賭博欲求に抗することができない状態です。
日本ではパチンコが多いと言われています。

性欲元進
望ましくない結果を来す異常な性行動であり、男性に多いです。

買いあさり
自らの経済力をはるかに超えた買い物によって家族的、社会的、職業的、経済的に困難に陥
る状態で女性に多いです。買いあさりは他のICDの要素が重複することが多く、性欲充進でアダ
ルトグッズを大量に購入する、後述のpundingで必要もない同じものを繰り返し買うなどの行
動を起こすことがあります。

むちゃ食い
夜間に生じ間食が増えることが多いです。パーキンソン病患者は体重減少を認めることが多
いですが、むちゃ食いがある場合には体重が増加します。

Punding反復常同行動
他人から見て意味のないような行動を長時間繰り返して行う異常行動です。その行為を止めるように他人に言われると怒ったり抵抗したりすることもあります。パーキンソン病ではより複雑な行動(運動・描画・編み物手芸、模型作り、庭仕事、大工仕事など)を繰り返すhobbyism(ホビーイズム)を認めることも多いです。

ICD発症の危険因子

ICD発症の危険因子としては、若年発症、未婚、若年男性があり、性格として新規探索傾向が強い、衝動性が高いことが挙げられます。
ドパミン系薬剤の高用量投与や長期投与、抑うつ、不安、運動合併症などの症状、嗜好品のア
ルコール、紅茶、マテ茶の消費量との関連も報告されています。

ICDの治療

ドパミンアゴニストの減量・中止もしくは他のドパミンアゴニストに変更することが中心となります。ドパミンアゴニスト減量に際し、ドパミンアゴニスト離脱症候群 dopamine agonist withdrawal syndrme(DAWS)に注意が必要です。DAWSはドパミンアゴニストの一種の退薬症状で、不安、パニック発作、抑うつなどの精神症状や、発汗、起立性低血圧などの自律神経症状・薬物渇望などの症状を来し、ドパミンアゴニストを中止した患者の19%に認めたと報告されています。
D3受容体への親和性が高いDAほどICDを生じやすいとされており、アポモルフィン(アポカイン)<ロチゴチン(ニュープロパッチ)<ロピニロール(レキップ)<プラミペキソール(ビ・シフロール)の順に親和性が高い(=副作用が出やすい)ことを考慮して変更を検討します。