― ワクチンの大切な目的は「重症化・入院・死亡を減らすこと」です ―

近年、高齢者のワクチン接種率が低下しています。

「ワクチンを打っても感染することがある」
「以前打ったから、もう必要ないのでは?」
「副反応のほうが心配」

こうした疑問をお持ちの方も多いと思います。

しかし、高齢者のワクチンについて知っていただきたいのは、「感染を100%防ぐこと」だけがワクチンの目的ではないということです。

高齢になると、感染症をきっかけに肺炎を起こしたり、入院が必要になったり、それまで元気だった方が体力を大きく落としてしまったりすることがあります。

そのため高齢者では、感染した場合でも重症化・入院・死亡をできるだけ減らすことが、ワクチン接種の大きな目的になります。

今回は、インフルエンザ、新型コロナ、RSウイルス、肺炎球菌、帯状疱疹について、「実際にどのくらい効果があるのか」という数字も交えてご紹介します。

① インフルエンザワクチン

高齢者では「重症化を防ぐ」ことが特に重要です

インフルエンザワクチンについて、ぜひ知っていただきたい数字があります。

国内の研究では、65歳以上の高齢者福祉施設入所者において、インフルエンザワクチンによって

● 発病を34~55%抑制
● 死亡を82%抑制

する効果が報告されています。

つまり、ワクチンを接種してもインフルエンザにかかることはあります。

それでも高齢者に接種をおすすめする大きな理由は、肺炎、入院、死亡につながるような重症化を防ぐことが期待できるからです。

インフルエンザワクチンの抗体は半年後にも維持されます

「去年ワクチンを打ったけれど、どのくらい効果が続くの?」という質問もよくあります。

インフルエンザワクチンを接種すると抗体価が上昇し、その抗体価の上昇は半年後にも確認されています。

ただし、インフルエンザウイルスは毎年流行する型が変化します。

そのため、前年に接種したから今年は必要ないということではなく、そのシーズンに対応したワクチンを毎年接種することが基本になります。

「絶対にインフルエンザにならないため」ではなく、「インフルエンザによる入院や死亡を減らすため」という視点が、高齢者のワクチンでは大切です。

② 新型コロナワクチン

新型コロナには「夏」と「冬」の流行があります

新型コロナとインフルエンザには、流行の仕方にも違いがあります。

インフルエンザは主に冬に流行しますが、新型コロナは冬だけではありません。

新型コロナは夏と冬の年2回、流行のピークを形成する傾向があります。

また、新型コロナはインフルエンザと比較して感染が広がりやすい感染症です。

流行初期と比較すると全体として重症化する割合は低下していますが、高齢者、特に70~90歳代では現在でも重症化や死亡のリスクが高いことに変わりはありません。

「新型コロナはもう普通の風邪だから、高齢者でも心配ない」というわけではありません。

新型コロナワクチンについても、感染を完全に防ぐことだけではなく、高齢者の重症化を防ぐことが重要な目的になります。

③ RSウイルスワクチン

RSウイルスは「子どもだけの感染症」ではありません

RSウイルスというと、乳幼児の感染症というイメージをお持ちの方が多いと思います。

しかし、高齢者がRSウイルスに感染すると、肺炎や呼吸不全などの重い呼吸器感染症を起こすことがあります。

特に、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、腎機能障害、免疫機能が低下している方、介護施設などに入所している方では注意が必要です。

2024年から、高齢者に対するRSウイルスワクチンの任意接種が始まりました。

代表的なワクチンが「アレックスビー」と「アブリスボ」です。

ワクチンアレックスビーアブリスボ
製造GSKファイザー
対象60歳以上60歳以上、妊婦にも使用
種類組換えワクチン組換えワクチン
接種方法筋肉注射筋肉注射
接種回数1回1回

アレックスビーの大規模臨床試験では、60歳以上の成人におけるRSウイルスによる下気道疾患に対して82.6%の有効性が示されました。

さらに、心肺疾患や代謝性疾患などの基礎疾患を持つ方では、94.6%の有効性が報告されています。

高齢者のRSウイルスによる肺炎や重い呼吸器感染症を予防できるようになったことが、RSウイルスワクチンの大きなメリットです。

④ 肺炎球菌ワクチン

高齢者の肺炎・重症感染症を防ぐためのワクチンです

肺炎球菌は、高齢者の肺炎の代表的な原因の一つです。

肺炎だけではなく、菌が血液中に入り、敗血症などの重い感染症を引き起こすこともあります。

高齢者の肺炎球菌ワクチンとしてよく知られているのが、「ニューモバックスNP」と「プレベナー20」です。

ワクチンニューモバックスNPプレベナー20
種類23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)
対応する血清型23種類20種類
免疫の特徴主に抗体を作る抗体産生+免疫記憶
特徴幅広い血清型をカバーより強く、長く続く免疫が期待できる

「ニューモバックスは23種類、プレベナー20は20種類なら、23種類のほうが良いのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、単純に数字だけでは比較できません。

プレベナー20は、肺炎球菌の成分をタンパク質と結合させた「結合型ワクチン」です。

抗体を作るだけでなく、免疫記憶を形成しやすく、より強く持続する免疫が期待できることが特徴です。

高齢者が肺炎球菌ワクチンを接種するメリットは、肺炎球菌による肺炎だけでなく、敗血症などの重い感染症を予防し、重症化を減らすことにあります。

どちらのワクチンを接種するか、また接種する順番については、年齢や過去の接種歴によって異なりますので、かかりつけ医にご相談ください。

⑤ 帯状疱疹ワクチン

当院では「シングリックス」をおすすめしています

帯状疱疹は、単に「皮膚に発疹が出る病気」ではありません。

皮膚症状が治ったあとも、強い痛みが何カ月、時には何年も続くことがあります。

これを「帯状疱疹後神経痛」といいます。

特に高齢になるほど帯状疱疹の発症が増え、その後の神経痛も問題になります。

現在使用されている主なワクチンには、従来の水痘生ワクチンと、組換えワクチンのシングリックスがあります。

ワクチン水痘生ワクチンシングリックス
種類生ワクチン組換えワクチン
接種回数1回2回
接種方法皮下注射筋肉注射
発症予防効果約50~60%約97%
効果の持続約5年程度10年以上
免疫不全の方接種不可接種可能な場合あり
特徴1回接種で済む高い予防効果と長い持続期間

シングリックスの臨床試験では、50歳以上の成人で97.2%という高い帯状疱疹予防効果が示されています。

さらに長期追跡では、接種後10年以上経過しても高い予防効果が維持されることが報告されています。

シングリックスは2回接種が必要で、接種部位の痛みや発熱などが比較的起こりやすいというデメリットがあります。

しかし、約97%という高い発症予防効果と10年以上にわたる効果の持続を考え、当院ではシングリックスをおすすめしています。

高齢者のワクチンは「感染したかどうか」だけで判断しないことが大切です

高齢者のワクチン接種率が低下しています。

しかし、高齢になるほど感染症による肺炎、入院、重症化、死亡のリスクは高くなります。

インフルエンザワクチン
→ 抗体価の上昇は半年後にも確認
→ 高齢者施設の国内研究では発病34~55%減、死亡82%減

新型コロナワクチン
→ 新型コロナは夏と冬に流行
→ 高齢者では現在も重症化に注意

RSウイルスワクチン
→ アレックスビーではRSV下気道疾患に対して82.6%の有効性

肺炎球菌ワクチン
→ 肺炎球菌による肺炎や敗血症などの重い感染症を予防

帯状疱疹ワクチン
→ シングリックスは約97%の発症予防効果
10年以上にわたり高い予防効果が持続

ワクチンを接種しても、感染症にかかることはあります。

しかし、高齢者にとって大切なのは「感染したか、しなかったか」だけではありません。

感染しても、肺炎にならない。
入院しない。
重症化しない。
そして、命を守る。

その可能性を高めることが、高齢者がワクチンを接種する大きなメリットです。

年齢や基礎疾患、これまでの接種歴によって必要なワクチンは異なります。

「自分はどのワクチンを接種したほうがよいのだろう?」と迷われる場合は、これまでの接種歴をご確認のうえ、診察時にお気軽にご相談ください。

\ 最新情報をチェック /

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です