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MRSの原理
MR spectroscopy (MRS) とは、分子構造の違いによる原子核の周波数差(ケミカルシフト)を解析することで生体内代謝物の種類、濃度などを調べることが可能となる撮像法です。
病変の有無だけでなく、どのような病変か(腫瘍か、虚血性病変か、脱髄疾患か)を調べることができます。
さまざまな部位のMRSを調べるmulti-voxel法と、目的とする部位だけをしらべるsingle-voxel法があります。
山崎文之先生の論文「Singl evoxel proton MR spectroscopy に よ る脳病変の診断」から画像を引用して説明します。
MRSのパラメーター(正常像)
パラメータ解説
・NAA
N-acctylaspartatc(NAA)という神経細胞に特異的に存在する物質です。
・Cho
Cholineは細胞膜の膜代謝の前駆物質と考えられており、 細胞膜のマーカーです。膜代謝の活発な腫瘍で特に高値を示します。
・Cr
Creatinineは細胞の代謝産物に主に由来しており、すべての細胞に存在しています。
Cr は他の信号に比較して変動が少なく、信号量の比較の基準となります。
このことから神経細胞の脱落、 変性の評価にはNAA/Cr が一般的に用いられ、脳梗
塞や変性疾患で減少します。腫瘍性疾患ではNAA/Cr の減少よりもcholine
(Cho)/Cr の上昇が著明となります。
・lactate(Lac)
嫌気性代謝のマーカーであり、正常脳組織では検出されません。脳梗塞や成長速度の速い腫瘍、炎症性疾患、代謝性脳症などで嫌気性代謝が亢進した時に出現します。echo time(TE ,msec )に左右され、TE 288、TE 30(longおよびshortTE) では上向きのピークとして、TE 135 〜144 では下向きのピークとして検出されます。
・lipid
細胞が破壊された場合の壊死組織で主に検出されます。
実際の症例
A diffuse astrocytoma /B anaplastic astrocytoma
脳腫瘍ではChoが上昇し、NAAが低下します。
C glioblastoma
Lac のピークに壊死を示 す lipidが重なって大きなピークとして認められます。
D 転移性脳腫瘍
Choピークは認めますが、NAAピークは認めません。Lac/lipids の大きな波形が認められます。
E 放射線壊死
F 脳膿瘍
NAA・Cho・Cr のピークは認められず、Lac のピークのほか、アミノ酸やalanine、acetate、glycine など特徴的な波形を示します
G 急性期脳梗塞
NAA は低下していますが、Cho/Cr に有意な増加は認められません。Lac のピークに lipidがs混 じっています。
H ミトコンドリア脳症
特徴的な大きなLac のピークを認めますが、Cho/Cr の上昇は認められません。NAA も低下しています。
参考文献
Singl evoxel proton MR spectroscopy に よ る脳病変の診断
山崎文之ら 脳外誌 603-8,2009