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球症状があり上位と下位運動ニューロン障害も揃うような典型例の診断は比較的容易です。しかしながらALSの病初期や臨床的亜型に加え、封入体筋炎、重症筋無力症、脱髄性ニューロパチー(多巣性運動ニューロパチー・慢性炎症性脱髄性多発根神経炎)、頚椎症性筋萎縮症など鑑別すべきさまざまなALS mimicが存在しています。
ALSと頚椎症の鑑別
下肢の下位運動ニューロン徴候や脳神経症状の有無をまず確認します。
加えて、針筋電図検査はALSにおける下位運動ニューロン障害を証明する中核的な検査となります。安静時所見として、活動性の脱神経を反映して線維自発電位や陽性鋭波が認められます(ALS以外でも頚椎症性脊髄症などの他の神経原性疾患でも出現し、さらに筋炎や筋ジストロフィーなどの筋疾患においても線維自発電位を認めることがあります。)
ALSの特徴ともいえる線維束自発電位(Fasciculation potential:FP)は脳神経領域~腰仙髄領域をまたがって広範な筋に認められます。注意点として、ALSの初期には線維自発電位が明らかでない場合がしばしばあります。FPは神経原性疾患でしかみられず、またその中でもALSにかなり特異的な所見です。
振戦を伴う運動ニューロン疾患
ALSや頚椎症でもふるえがみられることがあります。
・球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy:SBMA)
SBMAは成人男性に発症し、慢性進行性の四肢の筋萎縮と筋力低下および球麻痺を主症状と
する遺伝性の下位運動ニューロン疾患です。女性化乳房などのアンドロゲン不応症状がみられ、耐糖能異常、脂質異常症などを合併します。ALSと異なり経過が長い点が特徴です。発症10年程度で嚥ド障害が顕著となり、発症15年で車椅子生活、発症から20年で球麻痺に起因する呼吸器感染などで死亡するとされます。SBMAは伴性劣性遺伝で、X染色体に位置するアンドロゲン受容体遺伝子の異常とされます。血液検査では血清CKの異常高値もみられます。SBMAでは慢性の神経再支配に伴い著明なcontraction fasciculationが観察され、筋力テストなどの診察時に触れることができます。神経伝導検査では高率に複合筋活動電位の軽度振幅低下、感覚神経活動電位の高度振幅低下~消失を認め、針筋電図では慢性の神経原性変化を示す著しく巨大なMUPが観察されます。
・平山病
頚部前屈によって硬膜と椎体に脊髄が挟まれ、圧迫されることで循環障害が生じ、C5~Th1髄節レベルの前角細胞障害をきたすことが原因とされます(錐体路症状は認めません)。前角細胞が主に障害され、感覚神経は一般的に障害を免れます。10歳代から20歳代前半の若年発症かつ男性に圧倒的に多いです。
ALSと違い筋萎縮、筋力低下の分布としては上肢びまん性の障害ではなく、小手筋群と前腕尺側に目立ち、上腕には認めません。前腕尺側の筋萎縮が目立ち、前腕橈側の腕橈骨筋は保たれ(oblique amyotrophy)、手首では屈筋が伸筋よりも筋力低下が目立ち(橈骨手根伸筋は保たれる)、手指は逆に伸筋のほうが屈筋よりも筋力低下が目立ちます。罹患上肢はほとんどが一側性です。
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)について
SMAは脊髄の前角細胞の変性によって起こる進行性の筋萎縮と筋力低下を特徴とする、常染色体性劣性遺伝の下位運動ニューロン疾患です。
SMAの分類は発症年齢と臨床経過に基づく分類を行います。
①小児期に発症するⅠ型:重症型(Werdnig-Hoffmann病)
②Ⅱ型:中間型(Dubowitz病)
③皿型:軽症型(Kugerberg-Welander病)
④成人期に発症するIV型
小児期発症SMAの原因遺伝子は5番染色体長腕5q13に存在する運動神経細胞生存(survival motor neuron:SMN)遺伝子であり(SMN1遺伝子)、SMN1遺伝子の近傍に修飾遺伝子であるSMN2遺伝子が存在します。両者の塩基配列は5 塩基を除いて相同です。
SMAの重症度は、SMN蛋白質の発現量によって決まります。
SMA 患者における機能性の全長 SMN タンパク質は、SMN2 から産生されるわずかな完全長 SMN タンパク質のみとなります。
ALSの亜型であるPMAはSMA IV型である可能性が指摘されています(SMA IV型の原因遺伝子は多くは未確定)