目次
非運動症状とは
パーキンソン病では、運動症状(無動・振戦・筋強剛・姿勢反射障害)の他にもさまざまな非運動症状が見られます。非運動症状の中には運動症状が出現する前に現れるものがあります。
非運動症状の例として、睡眠障害、便秘などの自律神経障害、精神症状、認知機能障害、嗅覚異常、感覚異常・痛みなど様々な非運動症状が出現することが知られています。
精神症状(特に幻覚・妄想)
幻覚・妄想などの精神症状は約半数のパーキンソン病患者さんでみられるとされます。
L-dopaはドパミン補充療法に用いる薬剤の中では精神症状が出づらいとされます。幻覚妄想のある患者さんや発症リスクが高いと考えられるときは、L-dopaを中心とした必要最低限の投薬内容への変更が望ましいです。
精神症状発症のリスクが高いのは、抗コリン薬、アマンタジン、MAO-B阻害薬、ドパミンアゴニストなどが上げられます。
コリンエステラーゼ阻害薬は、パーキンソン病の認知症に対しても有効性が報告されています。認知機能・精神症状・日常生活動作などに対して有効性が示され、運動症状の悪化は認めなかったという報告があります。一方で消化器症状などによる脱落率はより多いという結果が示されています。一方、メマンチンの効果は明らかではありません。
抑肝散もパーキンソン病の精神症状に有効性が示されていますが、間質性肺炎や偽性アルドステロン症による低カリウム血症などに注意が必要です。
クエチアピンは比較的鎮静作用が強く、運動症状増悪の程度も低いとされますが、糖尿病患者への投与は禁忌とされます。
リスペリドンは運動症状増悪のリスクが高いとされます。
不眠
パーキンソン病患者の6割以上で不眠を認めるとされます。
日中過眠を訴えるケースもあり、海外ではナルコレプシーの治療薬であるモダフィニルの有効性が報告されています(我が国では適応外)
非ベンゾジアゼピン系のベンゾジアゼピン受容体刺激薬であるエスゾピクロンは二重盲検試験での有効性および安全性が報告されています。
メラトニン(本邦未承認)がパーキンソン病の夜間不眠への有効性が報告されており、メラトニン受容体刺激薬ラメルテオンが有効である可能性があります。
オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントについてはパーキンソン病の不眠に対する効果は報告されていません。
ロチゴチン投与で早朝起床時の運動症状改善・入眠障害・不眠の改善効果が示唆されています。
慢性疼痛
パーキンソン病の30-50%で慢性疼痛がみられることが知られています。痛みを伴う部位は下半身に多いことが知られています。
慢性疼痛は5種類に分類され
①骨格筋系の疼痛(70%)
筋の硬さや変形、姿勢異常との関係が指摘されています。
パーキンソン病の脊柱の肢位異常としては、首下がり、camptocorniaと呼ばれる特有の腰曲がり、Pisa徴候と呼ばれる側弯があります。
これらの現象により、特有の前屈み姿勢をとることで腰部に負担がかかり続け、慢性的な痛みが生じます。
夜間の筋の硬直が強い場合には、クロナゼパムの眠前投与も効果が得られることがあります。
②神経根障害による疼痛(20%)
ヘルニアなどにより神経根が圧迫され、分節性に一致した症状が出現します。
L-dopaの変動、on-offとの関連のない疼痛の場合には、整形外科的疾患を含め幅広い検討が必要となります。NSAIDs、COX-2阻害薬、湿布の貼付を検討します。
③ジストニア(40%)
不随意で持続的な筋の異常収縮と定義づけられます。
L-dopa濃度と関係し、発現に一致して疼痛を訴えます。ジストニアや⑤のアカシジアによる疼痛も、これらドーパミン補充により改善が促されます。
④中枢性疼痛(10%)
ドーパミン分泌量低下により痛みの閾値が下がる可能性が考えられています。
プレガバリンは神経障害性疼痛に保健適応が有り、カルシウムチャネルに働きかけ、神経細胞においてカルシウムの流入を阻害し、神経細胞の過剰興奮を抑える働きがあります。一方、長期間、高用量にて視力障害や肥満などを起こすことが有り、外来で定期的な血液検査フォローが必要です。
トラマドールやトラマドール・アセトアミノフェン配合剤も慢性疼痛に使用される薬剤です。弱オピオイドで、オピオイド受容体に直接作用するか、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用にて、下行性疼痛抑制系を賦活し、鎮痛効果を発揮します。副作用として便秘、嘔気、食欲低下があげられます。
SNRIのデュロキセチンは慢性疼痛の改善に加え、うつ症状の改善も期待できます。
⑤アカシジア
restless legs症候群とほぼ同義です。ドーパミンの分泌低下により下肢が静止不能となり、このため慢性疼痛が発生します。
プラミペキソール(徐放剤はミラペックス)の内服や貼付剤、ガバペンチン・エナカルビルやクロナゼパムの眠前投与を検討します。
クロナゼパムはパーキンソン病のレム睡眠行動異常や不眠にも効果があります。
ドーパミンの分泌低下とパーキンソン病の慢性疼痛の発生とは密接な関係があります。このため、疼痛発生の時間を聞くポイントとしては、on-off時間に一致するのかしないのか、夜間や早朝に多いのか、日中に多いのかを聞くことが大事です。
内服で治療が困難な場合は、脊髄電気刺激療法(spinal cord stimulation; SCS)(脊髄硬膜外腔に電極を入れ脊髄に微弱な電気を流すことにより、痛みをやわらげる治療方法)の導入を検討します。