病態・生理

多系統萎縮症(MSA)は、パーキンソニズム・小脳性運動失調・自律神経不全を経過中に種々の程度で認める進行性の神経変性疾患と定義されます。

平均発症年齢は 55~60 歳で、パーキンソン病のように 70 歳以降に有病率が指数関数的に増加することは認めません。稀に常染色体劣性を示す家系も報告されています。家族性 MSA の検討から、コエンザイム Q10 の合成酵素遺伝子 COQ2 の変異アレルの接合変異と、それに伴う COQ2 酵素活性の低下が MSA の発症に関連することが報告されています。(変異で酸化ストレス脆弱性のミトコンドリア(活性低下)になると考えられています。)
病理学的にはαシヌクレインを主要構成タンパク質とする GCI(glial cytoplasmic inclusion) の出現を基本とし(オリゴデンドログリアに封入体できる・ニューロンにも)、橋核やプルキンエ細胞病変などが小脳性運動失調、黒質や被殻病変などがパーキンソニズムの出現に関連し、脳幹の自律神経系に係わる諸核、交感神経節前線維、中間質外側核(中間質外側核は、胸髄および上部腰髄(T1からL2ないしL3まで)の側角の先端部分にある神経細胞柱。この核の神経細胞は交感神経性の節前線維を出している。)病変などが起立性低血圧や排尿障害をはじめとする自律神経不全の出現に関連します。中心前回や前角細胞などにも病変は出現し、錐体路症状も出現します。

症状

パーキンソニズムの特徴として、振戦は通常不規則で、姿勢時振戦と動作時振戦がみられ、細かなミオクローヌスを合併する症例も多いことが知られています。丸薬を丸めるような PD に特徴的な静止時振戦を認めることは稀です。パーキンソン症状は左右対称の場合が多いですが、非対称のこともあるります。L-dopa製剤に対する反応性は低く、約 30% は臨床的に有意な反応を示しますが、その効果は早期に減弱します。
小脳性運動失調は MSA-C に最も多くみられる症状であり、四肢に比して歩行障害や言語障害が目立ちます。めまい・眼振は通常目立ちません。他の孤発性脊髄小脳変性症よりも早く進行し、発症から5年以内に車椅子が必要となることが多いです。Romberg徴候は失調症状が強くなると陽性になりやすく、少し足を開いて診察します。
自律神経不全・泌尿生殖器障害の特徴として、起立性低血圧は3分間仰臥位をとった後、起立後3分で収縮期血圧 30 mmHg 以上もしくは拡張期血圧 15 mmHg 以上の低下を認めた場合、ほぼ確実例の臨床診断基準を満たします(ただし薬剤、脱水、食事、体温上昇、体調不良、糖尿病などの関与を除外する)排尿障害は起立性低血圧よりも早期に生ずることが多く、最近発症した原因不明の尿失禁や残尿を認めた場合、MSA の診断の可能性が高くなります。
食事性低血圧ではfull-stomachにならないように(食べ過ぎない)指導します。
MSAではカテコラミンがhead-upで上昇しない特徴があります。

交代性Horner症候群がみられることもあります。Shy-Dragerで有名です(Shy-Dragerは男性に多い(3倍)/初発40-60歳)
Horner症候群は、瞳孔・限瞼・顔面への交感神経支配の麻痺によって生じます。視床下部にある中枢から脳幹・脊髄・頸部交感神経節およびそれより末梢に及ぶその経路のどの部位が障害されても障害側に症状がみられます。

交代性Horner症候群は瞼裂狭小(細目)と瞳孔(縮瞳) の左右差が日により変動し(ホルネル症候群の出現サイドが入れ替わる)、これらの症候 は頭頸部交感神経活動低下 に起因しています。
 

画像所見

                                                                                  (難病と在宅ケア25 (10), 2020)

 MSAでは、小脳の萎縮に加え、脳幹、特に橋底部の萎縮を認め(A)(下の方から萎縮します「下からえぐれる」)、被殻の萎縮(被殻の丸みがなくなります「直線化」)を認めることもあります。また、橋内にT2強調画像で十字状にhighになる病変を認め、Hot cross bun sign(HCB)と呼ばれる異常を認めることがあり(図B)、被殻背外側にT2強調画像でslit状にhighとなる病変を認め、Hyperintensity putaminal rim(HPR)と呼ばれる異常を認めることがあります(C)。スリット状高信号は被殻背外側優位にみられます「うしろからhigh」。スリット状T2低信号は鉄沈着を反映(3Tでみられやすい)・スリット状T2高信号はgliosisを反映します。スリットサインは高信号・低信号の両者があります。

脳血流SPECTでは小脳・脳幹の血流低下します。
MSA-CはDat-SCANが落ちないこともあります(MSA-PはDat-SCANでの集積が落ちます)。

治療

①運動失調症状

根本的治療は困難ですが、保険適応の薬剤としてTRH製剤(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン;thyrotropin-releasing hormone)である、タルチレリン水和物(セレジスト®)内服(1回5mgを1日2回内服)およびプロチレリン点滴・注射(ヒルトニン®)(0.5-2mgを2-3週間連日行い、2-3週間休薬することを繰り返すか、週2-3回の点滴・注射を継続する)があります。
バレニクリン酒石酸塩(ファイザー社のchanpix)は、ニコチン性AChRに対するpartial agonistですが、SARAスコアの改善に乏しいことが報告されています。

②パーキンソン症状

MSAではレボドパ製剤の効果は乏しいとされていますが、MSAの30-70%には一時的には効果があるといわれています。パーキンソン症状を呈する一部のSCDでもレボドパ反応性を示す報告があります。パーキンソン症状に対してはまずはレボドパ製剤を使ってみて、効果がないあるいは
副作用が目立つようなら減量中止するという方法が勧められます。

③自律神経障害

自律神経障害としては、起立性低血圧や便秘、排尿障害などが現れます。起立性低血圧には、ミドドリン(メトリジン®)、ドロキシドパ(ドプス®)、アメジニウム(リズミック®)、フルドロコルチゾン(フロリネフ®)といった昇圧剤が勧められます。薬物以外にも弾性ストッキングや水分補給も推奨されます。
直腸・排便障害には、まず食物繊維と水分摂取が推奨され、次にモサプリドクエン酸塩、大建中湯、
ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル®)など各種の緩下剤等が推奨されます。緩下剤の中で酸化マグネシウムでは、高マグネシウム血症から起立性低血圧をきたすことがあり、注意が必要です。
排尿障害は蓄尿障害ないしは排出障害の両方があります。蓄尿障害には抗コリン薬やβ3作動薬、排出障害にはコリンエステラーゼ阻害薬やα1プロッカーを選択します。抗コリン薬は尿閉を起こしうるので注意が必要です。症状が進行した際には尿道カテーテル留置となることが多いです。

④呼吸機能障害

MSAでみられる睡眠時無呼吸に対してCPAPやNPPVが用いられますが、喉頭蓋軟化症を合
併している場合にはかえって症状を悪化させることがあり、事前に耳鼻科等で喉頭の状態を確認しておくことが望ましいです。また、MSAにおいては声帯開大不全が悪化して致死的となりうるため、声帯運動の評価も行う必要がある。気管切開は突然死を完全には予防できる処置ではありませんが、緊急の声帯開大不全がある場合は有用です。その他のSCDでも誤嚥性肺炎を繰り返す場合は、気管切開が勧められます。嚥下機能がある程度保たれているケースでは、気管切開に加えて喉頭を閉鎖する「喉頭気管分離術」も選択肢となります。気管切開も喉頭気管分離術も基本的には発声は失われてしまうデメリットはありますが、誤嚥性肺炎などを予防する点でメリットがあります。

多系統萎縮症と突然死

MSAの自律神経不全は突然死との関係が注目されており、呼吸の異常に関連する延髄セロトニン神経細胞の脱落(中枢性の呼吸停止)や循環器系の異常に関連する延髄アドレナリン含有神経細胞の脱落が突然死に関連している可能性が指摘されています。
MSA では睡眠時無呼吸、低換気、呼吸リズム障害、声帯開大障害(不全)をはじめとする呼吸器症状は最大 70% 程度に認め、特に睡眠中に高頻度に認めます。声帯は一番予後と関連するので必ずfiberで確認します。夜間喘鳴や嗄声の有無を確認します。
持続陽圧換気は有効ですが、喉頭内視鏡にて floppy epiglottis(喉頭蓋軟化;喉頭蓋基部の可動性が増して吸気時に喉頭蓋が気道奥に引き込まれる を認める場合には、むしろ呼吸状態が悪化する可能性も指摘されています(CPAPでエピグロが気道奥に押し込まれるため増悪します)。声帯開大麻痺には気管切開も考慮します(突然死の原因となり得ます)。CPAP 導入や気管切開によっても突然死を来す症例が報告されています。
MSAにおいても心臓自律神経障害が存在し、睡眠中の突然死の原因になることが知られています。ホルター心電図などで確認します。

認知症

長い経過では約20%で認知症を合併するとされます。
 

参考文献

 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018

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