結節性硬化症とは

結節性硬化症(tuberous sclerosis ; TSC)TSC1TSC2遺伝子の変異により発病する常染色体・優性遺伝性疾患であり、有病率は7,000~10,000人に1人とされる比較的頻度の高い遺伝子神経疾患です。
家族歴が明らかな症例は1/3であり、浸透率はほぼ100%とされますが、2/3が孤発例とされます。

TSC1遺伝子は9番染色体上にあり、ハマルチン蛋白をコードしています。
TSC2遺伝子は16番染色体上にありチュベリン蛋白質をコードしています。
TSC1/2複合体はGTP結合蛋白であるRhebを抑制することによってmTOR(mammalian target of rapamycin ; 細胞増殖や成長などの調節因子)の活性を抑制しています。TSCではTSC1/2遺伝子の変異によりmTORの過剰活性が起きることで細胞増殖などを引き起こします。

TSCの臨床的特徴は全身の腫瘍性病変と神経皮膚症候群であるということです。年齢によって主な症状が異なることと、症状の重症度には個人差が大きいことが特徴です。

TSC患者のうち10~25%では遺伝子検査で変異が同定されないため、TSCの診断は臨床診断
によって行われることが多いのが現状です。

主な症状

心臓の横紋筋腫
最も早期(胎生期から指摘されることも)から出現します。年齢と共に縮小します。

てんかん
てんかんの症状は乳児期から幼児期に発症することが多く、点頭てんかんまたは部分てんかんとして発症します。てんかん発症を契機にTSCと診断される事が多いです。乳児期からみられる他の症状としては白斑と呼ばれる脱色素斑と、脳室周囲上衣下結節(subependimal nodule;SEN)があります。モンロー孔近くのSENが水頭症の原因になることがあり、上衣下巨細胞性神経膠腫(subependimal giant cell astrocytoma;SEGA)と呼びます。頭部MRIでは皮質・皮質下白質にT2でhigh intensityを示す皮質結節(cortical tuber)が散在し、てんかんの原因となります。gliosis石灰化を認めることもあります。眼底に過誤腫を認めることもあります。

皮疹
小児期になると顔の血管線維腫と呼ばれる赤い隆起性の皮膚症状が主に鼻の周りや顔面に出現します。また思春期頃には腰のあたりの隆起性病変であるシャグリンパッチや爪囲線維腫と呼ばれる隆起性病変も出現します。

腎・肺病変
思春期以降で問題になってくるのは腎臓の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma;AML)肺リンパ脈管平滑筋腫症(lymphangioleiomyomatosis;LAM)です。
TSCと腎の血管筋脂肪腫(AML)の合併頻度は高く、AML は良性腫瘍であるものの増大して腫瘍破裂をきたすと致命的になる場合もあります。腎AMLは無症状に増大し、血管成分が多く、微小動脈瘤がある場合には出血による急な腹痛で緊急対応が必要となります。
LAMはエストロゲンが増悪因子となるため、LAMの出現はほとんどが女性ですが稀に男性に出現することもあります。LAMは気胸を来したり、進行すると呼吸機能の低下を来すことがあり,妊娠で増悪することがあります。

主な治療

点頭てんかん(West症候群)にはビガバトリン(VGB)ACTH療法(合成ACTH製剤を筋注する)が、焦点性てんかんに対しては抗てんかん薬や外科的切除術が行われます。
VGBはTSCに伴う点頭てんかんに対しては特異的に有効性の高い(90%以上)抗てんかん薬ですが、不可逆的な視野狭窄や可逆性の基底核・小脳・脳幹にMRI信号異常を来す(VGB-associated brain abnormalities on MRI;VABAM)ことに注意が必要です。VGB使用症例は定期的な網膜電図を含む眼科的評価が必須となっています。

難治例に対してはケトン食療法も適応となることがあります。ケトン食療法は糖質(炭水化物)を制限し、摂取エネルギーの大部分を脂質で摂取するてんかんの食事療法です。TSCのてんかんには一定の有効性がありますが再発例も多いです(50-80%の有効率)。TSCに対する手術としては、てんかん原性領域を切除して発作消失を目指す焦点切除術と、主に脱力発作や強直発作で転倒することを緩和する目的の脳梁離断術が行われますが、複数の皮質結節を持つTSC症例では再発も多いことが課題になっています。

顔の血管線維腫に対してはシロリムス外用薬(ラパリムスゲル)が有効です。副作用とし
ては光線過敏性や乾燥を来すことがあり、過度な紫外線を避け、日焼け止めや保湿剤を併用します。肺LAMに対してはシロリムスが適応であり、進行した症例では在宅酸素療法が必要になることもあります。

mTOR阻害薬

2012年以降TSCの様々な症状に対して、mTOR pathwayを抑制するmTOR阻害薬(エ
ベロリムス・シロリムス)が承認されてきています。腎AMLに対しては腫瘍増殖抑制作用のあるエベロリムス(アフィニトー ル)、動脈塞栓術(TAE)が出血の予防、AML縮小効果を狙って行われます。急な出血の場合には緊急手術が行われることもあります。腎AMLはほとんどの場合無症状で増大するため、定期的なエコーあるいは造影CTで評価し、微小動脈瘤のあるAMLの場合にはTAEが有効です。一方両側の腎に多発するAMLの場合にはエベロリムスが推奨されます。

脳のSEGAに関しては増大傾向が認められますが、無症状の場合にはエベロリムスが、水頭症の症状がある場合には手術が適応となります。また、難治てんかんに対してもエベロリムスが2018年に承認されました。
 

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投稿者

古田 夏海

群馬県内の総合病院で脳神経内科医として勤務しています。

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