目次
眼筋型重症無力症とは
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は、血液中の自己抗体により、横紋筋の神経筋接合部が障害される自己免疫疾患です。日本人は眼筋型が40%程度と頻度が高く、しかも眼瞼下垂(約70%)や複視(約50%)が初発症状となることが多いです。
20%程度が発症2年以内に全身型へ移行すると言われます。
患者の保有する自己抗体の種類や発症年齢(小児、50歳未満あるいは以上の成人)によって、臨床所見や胸腺腫の有無などに特徴があるといわれます。
成人ではさらに発症年齢を50歳で区切って50歳未満発症を早期発症MG、50歳以上発症を後期発症MGとすると、それぞれに臨床症状の特徴が異なります。後期発症MGは眼筋型が多く、しかも高齢者になると全身型への進展頻度が少ないことが知られています。さらに抗AChR抗体陽性者が多く、横紋筋抗体(titin抗体など)も比較的多く検出され、免疫治療によく反応するなどの特徴があります。
小児型MGは日本を含め東アジアに多いです。眼筋型が多く、抗体陽性率が低く50%程度とされます。
眼筋型MGではlidtwitch現象(下方視から上方視させたときなどの上眼瞼の痙攣現象)やenhanced ptosis現象(一側の眼瞼を検者が挙上させると,他側の眼瞼下垂が増強)が知られていますがあまり特異度は高くありません。
アイスパック試験(2分間冷却で、2mm以上の眼瞼下垂改善)は手軽な検査であり、感度は80-92%、特異度は25-100%とされます。
テンシロン試験は約80%で陽性になると言われます。
MGと自己抗体
血液中の抗アセチルコリン受容体(anti-acetylcholine receptor: AChR)抗体は眼筋型MGでは50%程度の陽性率といわれます。
抗MuSK(muscie-specific tyrosine kinase)抗体の陽性率は3%未満とさらに低いことが知られています。また、他の自己抗体として2011年に発券された抗Lrp4(low-density lipoprotein receptor related protein4)抗体や、他のMG関連抗体も知られています。さらにこれらのいずれの抗体も証明されないMG(seronegative MG)も3割程度存在します。
鑑別疾患①糖尿病性動眼神経麻痺
糖尿病性外眼筋麻痺の特徴は、発症様式は瞳孔不同を伴わない突発性の動眼神経麻痺であり糖尿病患者の約 1 %にみられます。中高年(40 歳以上)に多く、前頭部痛や眼窩部痛を伴います(眼痛があり頚動脈海綿静脈洞瘻 carotid-cavernous sinus fistula:CCFとの鑑別を要します)。動眼神経麻痺、外転神経麻痺が多く、約 90 %が 4 か月以内に回復し予後良好です。原因として眼球運動神経への
栄養血管の障害によるものが考えられています。
鑑別疾患②動脈瘤
内頚動脈が中大脳動脈を分岐したところから後交通動脈がでます。
内頚動脈-後交通動脈分岐部は動眼神経の通り道です。
大動脈瘤切迫破裂の徴候であり、注意が必要です。
動眼神経の働きは縮瞳です。
鑑別疾患③Horner症候群
虹彩(iris 黒目=瞳孔の周りで、色がついている部分)の瞳孔散大筋(交感神経支配)と瞳孔括約筋(副交感神経支配:動眼神経)が瞳孔の調節をしています。この交感神経経路が障害されるのがHorner症候群です。
・縮瞳・瞳孔不同:瞳孔散大筋への交感神経刺激の消失
・眼裂狭小:上眼瞼のミュラー筋麻痺による眼瞼下垂と下眼瞼のミュラー筋麻痺による下眼瞼挙上による(眼瞼下垂は2mm以下であり軽度 動眼神経麻痺の方が程度は強い)
・眼球陥凹:眼瞼狭小のためのみかけの現象
・同側顔面発汗低下
が症状として挙げられます。
鑑別疾患④OPMD
眼咽頭筋ジストロフィー(OPMD)は40歳以降に発症し、眼瞼下垂・嚥下障害・四肢筋力低下を主徴とする常染色体優性疾患です。原因遺伝子はpoly(A)-binding protein nuclear 1 (PABPN1)です。
OPMDの原因遺伝子産物は、RNA結合型タンパク質PABPN1(poly(A)-Bindinig Protein
Nuclear I)で、標的遺伝子のmRNAのポリAサイトに結合し発現レベルの調節を行っていると考えられています。PABPN1のN末近傍のアラニンGCGの半復配列が正常では6 ~ 7回繰り返されるのに対し、OPMD疾患型では9 ~ 13回に伸長しています。
MGとの鑑別にはCKの上昇の有無を確認します。