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痙縮とは

脳卒中の後遺症は運動麻痺、感覚障害などがあり、なかでもリハビリそのものを阻害する因子として問題となるのが痙縮(上位運動ニューロン障害による手足のつっぱり)です。痙縮は脳卒中後の患者の4 割以上に発症し、全国で約55 万人存在すると報告されています。痙縮により筋緊張が増加すると、さまざまな四肢の姿勢異常をきたします。痙縮はリハビリの阻害因子となるだけではなく、日常生活動作を低下させたり、介護者の負担が増える原因でもあります。
脳血管障害以外でも脳性麻痺・頭部外傷・無酸素脳症・脊髄損傷・多発性硬化症・脊髄小脳変性症や痙性対麻痺などの様々な疾患で痙縮が起こることがあります。
 脳卒中後遺症の痙縮に対する治療として、通常のリハビリテーションの他,筋弛緩などの内服治療、バクロフェン髄注療法、ボツリヌス療法などがあります。

ボツリヌス療法(ボトックス注射)

ボツリヌス療法は2010 年に本邦で上肢痙縮・下肢痙縮に対して保険認可されています。

『脳卒中治療ガイドライン2015』でも「痙縮に対する治療としてグレードA」として収載されており、安全かつ有効な治療法とされます。脳梗塞以外の痙縮でも投与することができます。

注射方法は、過緊張が認められる筋にボツリヌス製剤を施注します。これにより神経筋接合部で神経終末に作用し、アセチルコリンの放出が抑制される結果筋収縮が阻害され、筋の緊張を改善します。作用は局所性で、臨床効果はおおむね2~3日で現れ、1~2週間で安定したのち、3~4ヵ月間程度持続します。必要に応じて反復投与が可能です(投与間隔は3ヵ月以上)。副作用として、過度の脱力などが生じることがありますが、一般に一過性・可逆性です。

痙縮による主な姿勢異常

上肢の姿勢異常としてよくみられるものには、肩関節の内転・内旋、肘関節の屈曲、前腕の回内、手関節の屈曲、にぎりこぶし状変形、掌中への母指屈曲などがあります。下肢の姿勢異常としては、股関節の内転、股関節の屈曲、膝関節の屈曲、膝関節の過伸展、尖足・内反尖足、母趾過伸展などがみられます。

姿勢異常と治療対象となる主な筋

①肩関節の内転・内旋

広背筋・大胸筋・大円筋などが関与します。

いずれも肩甲骨(後面または前面)と上腕筋をつなぐ筋です。

②肘関節の屈曲

上腕二頭筋・上腕筋・腕橈骨筋が関与します。

③前腕の回内

円回内筋・方形回内筋が関与します。

前腕前側の筋(屈筋)はすべて上腕骨の内側上顆から起こり、主として中手骨の底につき、手根の関節に作用します。

④手関節の屈曲

橈側手根屈筋・長掌筋・尺側手根屈筋が関与します。

⑤握り拳様変形

深指屈筋・浅指屈筋が関与します。

これらの筋は手指の屈曲に働きます。

⑥掌中への母指屈曲

長母指屈筋・母指対立筋・短母指屈筋・母指内転筋が関与します。

長母指屈筋は外側半(橈骨側)から起こり、指の末節骨底につき、指の末節を屈曲させます。

⑦股関節の内転

座位で両側の大腿がいつも閉じており、歩行時にははさみ足歩行を呈します。

大内転筋(大腿内側の筋)などが関与します。

内転筋の強い内転作用は、直立位で大腿を互いに近づけ、直立位を維持安定するのに重要です。

⑧股関節の屈曲

うつぶせになれないなどの症状を生じます。

大腿直筋・腸骨筋・大腰筋が関与します。

(腸腰筋=腸骨筋+大腰筋)

大腿直筋は腸腰筋と共に股関節を屈曲するので、歩行の際に用いられます。また、特に蹴るときに強力に働くのでkicking muscleと呼ばれます。

⑨膝関節の屈曲

腓腹筋・大腿二頭筋などが関与します。

腓腹筋は下腿近位1/3に存在します。膝関節の屈曲・足関節の底屈に働きます。注射針の挿入が深いとヒラメ筋に入る可能性があります。

ヒラメ筋は腓腹筋に覆われてその深層にあります。

腓腹筋は2関節筋で、膝関節(屈曲)と足関節(底屈)とに作用します。

下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)が拘縮などで短縮すると、足は底屈位に固定されます。この状態を尖足といいます。

(ちなみに尖足と反対に足が背屈位に固定されると踵足といいます。下腿三頭筋が麻痺し、足の背屈筋のみが働く場合などにみられます。)

⑩膝関節の過伸展

膝が歩行中に伸展したままになり、分回し歩行の原因となります。

大腿直筋・外側広筋・内側広筋・中間広筋(=大腿四頭筋)が関与します。

大腿四頭筋が麻痺すると、膝関節を伸ばすことができません。

(膝蓋靱帯を叩くと、大腿四頭筋は反射的に収縮して膝関節の伸展が起こります)

大内転筋は内側広筋の深層に存在します。

⑪尖足・内反尖足

ヒラメ筋・腓腹筋・後脛骨筋・長母趾屈筋・長趾屈筋・前脛骨筋が関与します。

ヒラメ筋は足関節の底屈、下腿中央に存在します。

後脛骨筋の機能は、足関節の底屈と足部の内返し・内転です。最も深層で、長母指屈筋と長趾屈筋の間の深層にあります。下腿骨間膜の後面と、これに接する脛骨と腓骨とから起こります。腱は内顆の後ろを走ります。

⑫母趾過伸展

第1足趾が過伸展します。靴が履けないなどの問題が生じます。

長母趾伸筋が関与します。長母趾伸筋は前脛骨筋の深層にあります。

母指を強く背屈すると、足背で長指伸筋の腱を付着部まで触れることができます。長母趾伸筋の腱のすぐ外側に、足背動脈の拍動を触れます。

ボトックスの投与量

上肢痙縮は400単位まで、下肢痙縮は300単位まで上肢痙縮+下肢痙縮が両方あり上下肢同時に打つときには400単位までとなります。

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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