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SBMAとは
球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy ; SBMA)は脊髄・脳幹の下位運動ニューロンと骨格筋とが変性する遺伝性疾患であり,緩徐進行性で成人男性にのみ発症します(伴性劣性遺伝)(問診ではお母さん方の父(おじいちゃん)に同じような症状はないか? 男の兄弟はいるか?などを確認します。)。我が国では、人口10万人あたり1-2人(患者数2000人程度)の有病率とされています。
症状
主症状は四肢の筋力低下・筋萎縮(近位筋優位)および球麻痺による構音障害・嚥下障害・開鼻声です。30~60歳代で下肢を中心とした筋力低下を初めて自覚しますが、その10年ほど前に手指の振戦や有痛性筋痙攣などがみられ、とくに前者は頻度が高くほとんど全ての例で認められます(SBMAは振戦が初発症状となることが多いです)。随意運動時や筋肉の収縮時に線維束性収縮が増強する現象(contraction fasciculation)が特徴的で、顔面・頸部・舌などでとくに顕著にみられます(舌の萎縮は「ブドウの房状」と言われます。挺舌ができるところがALSとの違いです。)。約50%の症例で反復性の喉頭痙攣(短時間の呼吸困難感の発作)を自覚しますが、症状の進行で消失することもあります。
腱反射は全身で低下ないし消失し、Babinski徴候などの病的反射は陰性になります。感覚障害と
して振動覚などの低下をみとめることがあり、多くの例で下肢遠位に限局します。随伴症状として女性化乳房などのアンドロゲン不応(不全)症状(女性化徴候)がみられ(男性不妊は少ないとされます)しばしば筋力低下に先行します。認知症は合併しないとされます。進行性の経過をたどり、嚥下機能障害や呼吸機能低下による呼吸器感染が死因になることが多いです。
検査所見
血液検査ではCKがほぼ100%で上昇し、脂質異常症や耐糖能低下もみられます。
針筋電図検査では、安静時に線維自発電位などの脱神経所見をみとめ、随意収縮時に高振幅・多相性運動活動電位などの慢性脱神経所見、動員(recruitment)の減少などの神経原性変化がみられます。神経伝導検査では複合筋活動電位の軽度低下に加え、感覚神経の異常が目立つのが特徴
です。
発症機序
SBMAはポリグルタミン病とよばれる遺伝性神経変性疾患であり、X染色体長腕(Xq11–q12)に位置するアンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)遺伝子における翻訳領域(第一エクソン内)のCAG三塩基繰り返し配列(リピート)の異常伸長という変異により発症します(ポリグルタミン病の一つ)。CAG繰り返し配列は、健常人ではCAGリピート数は11~36ですが、SBMA患者ではリピート数が38以上に伸長します。
SBMAの病因タンパク質であるAR(アンドロゲン受容体蛋白)は通常不活性化された状態で細胞質に存在しますが、リガンドである男性ホルモンの存在下では複合体から離れて核内へと移行し、このために神経障害が起こると考えられています(=テストステロン濃度に依存して変異AR蛋白がニューロン核内に集積)。
SBMAと同様にCAG繰り返し配列の異常伸長を原因とする疾患としてHuntington病や脊髄小脳変性症が知られており、これらポリグルタミン病と言われる一群の疾患では、異常伸長したポリグルタミン鎖を有する異常タンパク質が細胞内に集積することが共通する病態と考えられています。
治療薬
伸長ポリグルタミン鎖を持つ変異ARタンパク質のリガンドである男性ホルモン依存的な核内凝集が病態形成上重要と考えられています。 進行抑制には黄体形成ホルモン放出(刺激)ホルモン誘導体であるリュープロレリン酢酸塩(LH-RH(luteinizing hormone-releasing hormone)アナログであるリュープリン®→視床下部に働きテストステロン分泌抑制)を用いた抗アンドロゲン療法が唯一SBMAに対し承認取得に至っています。
成人には12週に1回リュープロレリン酢酸塩として11.25mgを皮下に投与します。