はじめに

脊髄小脳変性症とは、 運動失調(主に小脳性運動失調)を主な症候とする神経変性疾患の総称です。 様々な病型が知られていますが、いまだに発症の原因が明らかになっていない病型も存在し、全体のうち 約1/3が遺伝性、 約2/3が孤発性といわれています。遺伝性の場合、多くは常染色体優性遺伝形式をとります。常染色体優性遺伝形式をとる型は、脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia: SCA)と称され、発見された順に1型から名称がつけられています。

ポリグルタミン病とは

原因遺伝子翻訳領域内の CAG リピートが異常伸長することで発症するトリプレットリピート病は、CAG リピートが翻訳されグルタミンリピートになることから、ポリグルタミン病と総称されます。ポリグルタミン病の発見は 1991 年の球脊髄筋萎縮症に始まり、ハンチントン病、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、Machado–Joseph 病 ( MJD)/SCA3、 SCA2、SCA6、SCA7、SCA17と明らかにされてきました。

SCA1

1993年にATXN1遺伝子内のCAGリピートが異常伸長することにより発症する疾患であることが明らかになりました。
異常リピート数は発症年齢、重症度と負の相関関係が認められ、世代を越える際に不安定に増加・若年化・重症化することがあり、表現促進現象(anticipation)と呼ばれます。この現象は父親から子に受け継ぐ際に目立ち、多くのトリプレットリピート病に見られる特徴です。

発症年齢は7-74歳と幅があります。

ATXN1 の CAG リピート内には CAG 以外にも3塩基(CAT)の挿入配列(CAT–trinucleotide interruption)が1~3個含まれ、この挿入配列の欠落が CAG リピートの不安定性に関与していることが知られます。すなわち正常リピート数は 35 以下とされていますが、CAT 挿入配列が存在すれば 44 以下まで正常と考えます。一方、CAT 挿入配列がない場合は 36~38 を変異性を持つ中間
長と考え、39 以上は病的意義を持つと考えられています。

SCA1 は対立遺伝子の正常リピート数も発症年齢に影響を与えるという報告もあります。

運動失調のほか、緩徐眼球運動、構音障害、痙性、腱反射亢進を主症状とし、嚥下障害、錐体外路障害、筋萎縮、認知機能障害を呈する症例もあります。

SCA2

1995年にATXN2遺伝子内のCAGリピートが異常伸長することにより発症する疾患であることが明らかになりました。

ATXN2 の正常アレルの CAG リピートは31 以下とされていますが、22 リピートが最も多く 97% を占めます(リピート数のheterogenityが小さいことが知られています)。ATXN2遺伝子の CAG リピート中間長(CAG リピート数 27~33)がALSの危険因子になることが報告されています。ataxin–2 は TDP–43 と相互作用することが報告されています。

発症年齢は2-70歳代と幅がありますが、多くは40歳代で発症します。

他のSCA に比して水平・垂直方向の衝動性眼球運動が緩徐になる特徴を有し、眼球運動の診
察において,指標追視で眼球運動が遅れ、頭頸部の動きで代償する現象が見られます。腱反
射は低下
することが多いです。

SCA2・3ではパーキンソニズムを呈する事があります。

炭酸リチウムが有効である可能性が報告されています。

SCA3 (Machado-Joseph disease/SCA3)

1993年に連鎖解析で14q24.3-32.1に原因遺伝子座があることが発見され、1994年にMJD1の原因遺伝子(ATXN3)が同定されました。
本邦でMJDの連鎖解析の報告が出た後に、フランスでSCA3の報告があり(SCA1、2の次にSCA3)、最初はMJDとSCA3は異なると考えられていました(locusがMJDと同じ)→後に同じ遺伝子変異と判明しました(ATXN3

リピート数のheterogenityが大きいことが知られています(10-44とnormal rangeが広いです)
伸長リピートでは56-86Rになります。

SCA5

リピート病ではなく古典的変異(point mutation)です。

Abraham Lincolnの家系で報告されており、リンカーン病ともいわれます。

pure cerebellar typeの小脳失調症状を、33±13歳(10~68)で発症するとされます。

anticipationがみられ、maternal inheritanceで著明とされます。

β-Ⅲ spectrin(SPTBN2)という細胞骨格蛋白をコードする遺伝子における遺伝子変異であり、小脳プルキンエ細胞に高発現することが知られています。

SCA6

症状はSCA6・31は純粋小脳型を呈します。小脳症状以外、たとえばパーキンソニズムなどは目立ちません。
眼振を呈することが多いです(80%以上)

原因遺伝子はCACNA1A遺伝子におけるCAGリピートの延長がみられます。

発作性失調症2型 EA(episodic ataxia)2もCACNA1A遺伝子の点変異が原因で起こります。EA2より稀なEA1はカリウムチャネル異常が原因です。他に家族性片麻痺性片頭痛(FHM)の原因遺伝子でもあります。)

SCA6の遺伝子産物はCaチャネルという膜蛋白です(calcium channel, α1A subunit
他のポリグルタミン病とは異なるメカニズムで発症します。

CAGリピート病に共通してみられるanticipationはSCA6では目立ちません。SCA6のCAGリピートは安定で世代間の変化をほとんどみとめませんが、これはCAGリピート数が少ないからと考えられます。SCA6のCAGリピートは19リピートまでは正常、伸長リピート数が20を超えると異常です。他のポリグルタミン病のリピートでは発症に少なくとも40リピート以上が必要です。

早くても40歳以降で~発症します。認知機能は悪くならないことが知られており、down beat nystagmusが特徴的です。

SCA8

マイクロサテライトリピート伸長病でありCTG/CAGリピート伸長により起こります(40リピートまでが正常)SCA8の伸長CTG・CAGリピートが両方向性に転写されることが明らかになっています。

CAGリピート方向に転写される遺伝子はataxin-8(ATXN8)とよばれ、CUGリピート方向に転写さ
れる遺伝子はataxin-8opposite strand(ATXN8OS)と呼ばれます。

 正常(control)でもリピートが長い人が居ます。
リピートが長くても発症しない人がいるのは、浸透率の差やリピートの内部配列の差(挿入配列の有無)が理由として考えられています。低浸透率が顕著です。

CTG/CAGリピートが伸長した変異SCA8遺伝子は両方向性に転写され

①伸長CUGリピート転写物はRNA fociを形成し、RNAレベルで細胞を障害します。(CUG結合蛋白の生理的な機能が阻害)

②伸長CAGリピート転写物は転写されてポリグルタミンとなり蛋白レベルで細胞を障害します。プルキンエ細胞にポリグルタミンが凝集します。

まとめると
CTGは転写して→CUG(RNA)
CAG→ポリグルタミンに転写

臨床症状はpure cerebellar typeを示します。

グルタミンを翻訳するCAGフレーム以外にも、AGCフレームやGCAフレームなどに由来するhomopolymeric proteinを翻訳するrepeat-associated non-ATG translation(RAN translation)を起こすことが知られています。

SCA10

小脳失調が主徴で、家系によりてんかんや種々の小脳外神経徴候がみられます。anticipationがみられます。遺伝子変異は、22q13.3 上の ATXN10(ataxin–10)遺伝子イントロン9に存在する
ATTCT という5塩基リピートの異常伸長です。正常リピート数は 10~29、疾患リピート数は 280~4500です。

核小体の近くにRNA foci(AUUCU RNA foci)がみられます。

SCA17

TATA 結合タンパク質(TBP)遺伝子内CAG/CAA リピートの異常伸長により発症するポリグルタミン病として報告されました。

発症年齢は3歳から 55 歳の報告があり、多くの症例は 30 歳前後で発症します。小脳失調、精神症状、認知症、パーキンソニズム、ハンチントン病に類似した舞踏運動などをみとめます。

SCA31

以前の記事で紹介しています

SCA36

SCA36/Asidanは、nucleolar protein 56(NOP56)遺伝子イントロン1におけるGGCCTG
の6塩基繰返し配列の異常伸長による疾患で、小脳失調症で発症し、舌や四肢・体幹の筋萎縮や線
維束性収縮などの運動ニューロン徴候を高率に合併します。運動ニューロン徴候については発症から10年前後経過した後に明らかになることが多いです。また、感音性難聴や進行期には前頭葉機能障害も臨床的特徴であることが判明しています。
GGCCTGリピート数については、健常コントロールにおいては10(5~14)リピート、SCA36患者では2000リピート以上になります。

anticipationはみられません。

核内にRNA凝集物がみられます。蛋白にも翻訳されるかは不明です。

SCA37

DAB1遺伝子のイントロンに存在するATTTCリピート伸長が原因になります。

このATTTCリピートの異常伸長はBAFME(良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん)の原因であることも知られています。

SCA38

ELOVL5遺伝子の変異です。エロンガーゼをコードする遺伝子です(SCA34も同様)。
エロンガーゼはω3・ω6系多価不飽和脂肪酸合成に関与します。
血清のアラキドン酸(DHA)が減少します。

DRPLA

歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentorub-ropallidoluysian atrophy;DRPLA)は脳
内の小脳歯状核、赤核、淡蒼球、ルイ体(視床下核)といった部位が主に変性、萎縮する病理学的所見の特徴に基づいて提唱されています。
DRPLAの特徴の一つに症状が発症年齢と強く関係していることが挙げられます。

①20歳未満で発症→進行性ミオクローヌス性てんかんの一つに分類され、不随意運動とともにけいれん発作や精神発達遅滞が症状として現れます。

②成人発症→てんかん症状は目立たず、認知症や小脳失調、舞踏アテトーゼなどの不随意運動が主な症状となります。このように異なった症状を呈するため、あたかも別の疾患が同じ家系内に発症するようにみえます。これは世代を経るごとにCAGリピートが伸長し、若年発症となり、重症化するためです(anticipation)。このCAGリピートの伸長は父親から遺伝する場合により顕著です。

ハンチントン舞踏病と臨床症状が似ていますが(錐体路障害・舞踏様運動)、失調症状がみられることがDRPLAとの違いです。

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