マイクロサテライトリピート病とは

遺伝性神経変性疾患では、数塩基の繰り返し配列(マイクロサテライトリピート)の異常伸長が病原性変異となっているリピート病が多いことが特徴として挙げられます。これまでの報告では、40以上の遺伝性神経変性疾患が翻訳領域および非翻訳領域のマイクロサテライトリピート伸長を原因とする疾患であることが明らかになっています。遺伝性疾患の原因となる非翻訳領域リピート伸長は、翻訳領域リピート伸長と比較してサイズが大きく不安定であることが知られています。最初に報告されたリピート伸長病は、球脊髄性筋萎縮症におけるポリグルタミン鎖をコードしているCAGリピートの異常伸長です。

RAN translation(RAN翻訳)とは

2011年に非翻訳領域と思われたリピート領域がAUG開始コドンなしにタンパク質に翻訳されるという現象が発見され、 RAN翻訳(repeat-associated non-AUG-initiated translation; RAN translation=RANT)と名づけられました。

リピート病において異常伸長リピートが存在する原因遺伝子やその配列はさまざまですが、RNA foci形成やRAN翻訳など一部共通する病態が想定されています。リピートRNAに結合するRNA結合タンパク質はスプライシング因子をはじめさまざまですが、これらがリピートRNAの高次構造や局在、RAN翻訳の制御を介して病態にどのように寄与しているのかが徐々に明らかになってきています。

また、RAN翻訳によって生じたRNAタンパク質が封入体として組織に存在していることが明らかとなっています。

マイクロサテライトリピート伸長病でRAN蛋白ができる疾患

SCA8

SCA8の伸長CTG・CAGリピートが両方向性に転写され、dualにRAN蛋白ができます。
CAGリピート方向に転写される遺伝子はataxin-8(ATXN8)、CUGリピート方向に転写される遺伝子はataxin-8 opposite strand(ATXN8OS)とよばれます。
伸長CUGリピート転写物は神経細胞核内でRNAの凝集体(RNA foci)を形成し、伸長CAGリ
ピート転写物はRAN蛋白として翻訳され、核内封入体を形成します。RAN翻訳は短いリピートでも起こることが知られていますが、核内封入体になるのは長いリピートです。

DM1

伸長CTGリピートによるRNA毒性が病態のメインですが、RAN翻訳も起こります。
DMPK遺伝子の3’UTR中で異常に伸長したリピートRNA は、RNA 結 合 タ ン パ ク 質 muscleblined-likeprotein1(MBNL1)を隔離するなどしてRNA fociを形成します。また、スプライシング制御因子 CUG-binding protein1(CUGBP1)の発現が亢進します。この結果、Cl チャネル、インスリン受容体、トロポニンなどの遺伝子にスプライシング異常が生じ、筋力低下・糖尿病・不整脈など DM で認められる様々な症状を引き起こすと考えられています。

FXTAS (脆弱X関連振戦・失調症候群)

病理学的にNIID(神経核内封入体病)に類似した核内封入体が認められます。H&E染色でエオジン好性に染色され、抗ユビキチン抗体に染色される核内封入体が、中枢神経系のみならず、末梢神経系、一般臓器にも認められます。

C9orf72 

GGGGCC/GGCCCCのセンス鎖・アンチセンス鎖の両方でRAN蛋白ができます(ダイペプチドリピート病)リピートは共に転写・翻訳されています。chromosome 9 open reading frameの略です。
病理学的には、C9orf72 変異症例は脊髄に TDP-43 封入体をみとめ古典的 ALS の病理像を呈する一方、大脳皮質・海馬・小脳における広範な NCI(Neuronal Cytoplasmic Inclusions)および p62 陽性、TDP-43 陰性の封入体をみとめ、とくに前頭葉皮質と海馬アンモン角 CA4 に有意な変化をみとめることが C9orf72 変異陽性を示唆すると報告されています。
上記の封入体は、poly-(Gly-Ala)とそれより少ない poly-(Gly-Pro)と poly-(Gly-Arg)のジペプチドくりかえし蛋白をふくみ、これらが異常凝集することで ALS/FTD が発症すると考えられ、治療のターゲットにもなりえることが示唆されています。

補足

上記以外にもハンチントン病でもRANTでポリグルタミン以外の蛋白もできていることが報告されています。ポリグルタミン病という分類は今後見直されていくかもしれません。

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投稿者

古田 夏海

群馬県内の総合病院で脳神経内科医として勤務しています。

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