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神経核内封入体病とは
神経核内封入体病(Neuronal intranuclear inclusion disease: NIID)は臨床的には認知機能低下を主症状として発症し、病理学的には神経細胞とグリア細胞に好酸性核内封入体が認められます。(エオジン好性核内封入体を認めます)
多くは中年以降に発症し、平均発症年齢は60~80歳と比較的高齢です。
近年、曽根らのグループによりNIIDの原因がNOTCH2NLC遺伝子のGGCリピート伸長であることが発見されました。
主な症状
臨床的には家族性のものと孤発性の症例があり、初発症状は筋力低下を示す群と物忘れ症状を示す群があります。
孤発性 NIID では、高齢発症でもの忘れを主訴に受診する症例が大半とされます。物忘れ以外では、縮瞳・失調・膀胱直腸障害・遷延する意識障害・全身性痙攣などの症状があげられます。
(脳卒中やてんかんを疑わせる急性の経過を呈する事があり注意が必要です。発作性に発熱がみられることもあります。)
脳卒中・片頭痛を呈する症例もありミトコンドリアの障害が関与している可能性も示唆されます。
家族性NIIDでは、四肢の筋力低下で発症する群と物忘れ症状で発症する群があります。四肢の筋力低下で発症する群は若年発症であることが特徴です。
病理所見
NIIDはH&E 染色標本においてエオジン好性に染色される核内封入体(好酸性封入体)が、中枢神経系および末梢神経系の神経細胞・glia 細胞・Schwann 細胞、さらに一般臓器の細胞の核内に広く認められる神経変性疾患とされてきました。封入体は、ユビキチンもしくは p62 により陽性に染色されます(p62染色陽性ですがポリグルタミン病ではありません)。この核内封入体は、中枢および末梢神経系に広く分布しますが、必ずしも顕著な神経細胞脱落を伴うとは限らず、神経細胞脱落の部位および程度は症例ごとに異なっており、その結果中心となる臨床症候が症例ごとに異なると報告されてきました。
封入体は汗腺に多く見られます。
診断方法
皮膚生検(ランダムバイオプシー)を行い、ユビキチン陽性の核内封入体が認められれば NIID である可能性が極めて高いと考えられますが、病理学的に NIID と類似したユビキチン陽性核内封入体を認める疾患としてFXTASが挙げられます。鑑別としてはNIID の原因遺伝子である NOTCH2NLC 遺伝子の GGC リピートの伸長の有無を検討するか、もしくは FXTAS の原因遺伝子検査(FMR1 遺伝子の GCC リピート延長の解析)を行い鑑別をすすめます。
皮膚生検は下腿や腹壁から行います。
検査所見
頭部 MRI DWI 画像で皮髄境界に沿う形で認められる異常高信号領域ないしはT2 強調画像で白質脳症を大多数で認めます「進行性の白質脳症」。DWI高信号は持続し、ADCは等~低信号ですが特異的ではありません。
髄液検査では、髄液蛋白の上昇を認めることがあり、神経伝導速度検査異常も9割以上で認めます。
高次機能検査ではMMSEよりFABの方が低下しやすいことが知られています。
リピート伸長について
認知症が主症状の患者さんにはGGC(→グリシンというアミノ酸に翻訳)3塩基のみの繰り返しがみられるのに対して、末梢神経症状を主症状とする患者さんには、GGCの繰り返しに加えてGGA配列が含まれていました。これは、リピート配列の違いが症状の違いを引き起こしている可能性が示唆される結果です(Nature Genetics 2019)
CGGリピート伸長をきたす疾患
神経核内封入体病以外に、白質脳症を伴う眼咽頭型ミオパチー、眼咽頭遠位型ミオパチーにおいてそれぞれ別遺伝子にGGCリピート伸長変異が報告されています。