目次

アルコールで様々な神経内科疾患が発症する

高濃度のアルコールを繰り返し摂取すると、神経内科疾患ではアルコール性多発ニューロパチー、ミオパチー、Wernicke脳症、ペラグラ脳症、アルコール性小脳変性症など多くの疾患が生じてきます。

Wernicke脳症

Wernicke脳症はチアミン(ビタミンB1)の欠乏によって生じる急性ないし亜急性の脳症です。
(ビタミンB1欠乏の原因は①食事での摂取不足②アルコール代謝増大によるビタミンB1消費増大③腸管からの吸収障害などがあげられます。)
三大症状は①意識障害②眼球運動障害③運動失調を三徴とします。ふらつき、めまい、複視、傾眠などで発症します。
無治療の場合、意識障害が進行して昏睡になり死に至ることもあるため、早期診断・早期治療が重要です。

頭部MRIでは、乳頭体や第三・四脳室周囲灰白質(特に視床内側核)、中脳水道周囲灰白質が左右対称性に障害され、T2強調画像で高信号を呈することが多いです。

診断と治療 98(12): 1999-2005, 2010より引用

診断はビタミンBlの引値や赤血球中のトランスケトラーゼ活性の低下があれば診断は確実となりますが、結果の判明には時間がかかるため、本疾患が疑われた場合は直ちに治療を開始します。ビタミンBlを大量(100~300mg/日)に投与します。
Wemicke脳症に引き続き亜急性の経過で記銘力低下、健忘、作話などが生じる場合があります(Korsakoff症候群)。Wernicke脳症とKorsakoff症候群は病理学的には同一であるため、Wemicke-Korsakoff症候群とよばれることもあります。

Marchiafava-Bignami病

Marchiafava-Bignami病は脳梁を中心に脱髄壊死が生じる疾患です。

安価な赤ワイン飲酒者に多いとされてきたましたが、現在ではどのアルコールでも生じることが知られています。脳梁を中心に、半卵円中心、前交連、視交叉、中小脳脚なども障害されます(MRIで病変部位に拡散強調・FLAIR・T2強調画像で高信号を認めます)。
急性に昏睡に至るものと亜急性に認知症、性格変化、筋緊張充進を生じるものがあります。前者は白質壊死が主体で、後者は脱髄が主体とされます。
推測される病態機序は、アルコールまたはその代謝物の直接毒性が主因となり、脳梁などの血液脳関門が破壊されて脱髄、浮腫、壊死などが生じると推測されています。

治療はビタミン剤の大量投与やステロイドの投与などが行われます。

診断と治療 98(12): 1999-2005, 2010より引用

ペラグラ脳症

ビタミンB3であるナイアシン(ニコチン酸、ニコチン酸アミド)の欠乏によって生じる脳症です。イタリア語で“pelle(粗い)、agra(皮膚)”というのが語源です。日光曝露部位に色素沈着と鱗屑を伴った皮疹を呈します。

診断と治療 98(12): 1999-2005, 2010より引用

ナイアシンは肉類や豆類に豊富に含まれる栄養素です。その誘導体にはニコチンアミドアデニ
ンジヌクレオチド(NAD)およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)が含まれるますが、これらは酸化還元反応における補酵素で、細胞内代謝において重要な役割を果たしています。生体内では前駆体であるトリプトファンからナイアシンを合成できます。
ナイアシンおよびトリプトファンの重篤な欠乏症は、ペラグラの主因です。原発性欠乏症は通常、とうもろこしを主食とする地域に起こります(とうもろこしにトリプトファンが欠乏していることなどが原因とされます)二次性欠乏症は、アルコール乱用によるものが多く、その他、下痢・肝硬変・不適切な輸液などによっても起こります。また、長期のイソニアジド治療はナイアシンと競合してNADP合成を減少させ、薬剤性にペラグラを発症しうることがあります。他に、トリプトファン代謝異常をきたす疾患(悪性カルチノイド腫瘍、および吸収障害をきたすHartnup病)も原因となります。
症状は、認知症、下痢、皮膚炎が三徴として有名です。
(認知症=dementia、下痢=diarrhea、皮膚炎=dermatitisの頭文字から3Dと呼ばれます。)
治療はニコチン酸やニコチン酸アミドの投与を行います。

アルコール性多発末梢神経障害

長期の慢性多量飲酒者(日本酒3合相当のアルコールを10年以上)の約1/3に生じます。
アルコールの直接毒性やビタミンなどの栄養障害が原因として考えられます。しびれは両下肢遠位部
に始まり次第に上行し、手袋靴下型の知覚障害を呈します。筋力低下は軽度です。治療は禁酒とビタミン剤の補給ですが、治療抵抗性のことが多いです。

アルコール性小脳変性症

歩行障害が中心で、上肢や体幹の失調症状および眼振や構音障害はあまり目立たないことが多いことが知られています。
小脳虫部上面と上葉が障害されて萎縮します。病理学的にはPurkinje細胞の脱落と顆粒細胞の脱落がみられます。
治療は断酒をしてビタミンを含む十分な栄養を摂取させることですが、症状が軽快しないことが多いです。病気の原因として、アルコールやその代謝産物(アルデヒドなど)が直接小脳を障害するためと推測されています。

アルコール性痙縮

慢性多量飲酒者の約10%にみられます。四肢、特に下肢に痙縮がみられ腱反射が亢進します。栄養障害が主因と考えられ、禁酒と栄養補給で軽減します。

アルコール性ミオパチー

横紋筋融解症や低カリウム血症により、急性または慢性に筋肉の異常を呈することがあります。

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です