目次

認知症とADL

ADL(日常生活動作)には①基本的ADLと②手段的ADLがあり、手段的ADLは独居能力と関連します。

基本的ADLは食事、入浴、トイレ動作、着替え、階段の昇降などが含まれます。(セルフケアと移動)

手段的ADL(IADL)は、ものを介在させて日常生活を営む能力で、買い物・請求書を支払う・乗り物の利用・服薬管理・食事などの家事・洗濯などが含まれます。

IADLが障害されていないと認知症とは診断できません

アルツハイマー病では
IADLが障害→軽度アルツハイマー病
基本的ADLが障害→中等度アルツハイマー病
常時介護が必要→重度アルツハイマー病
と考えられています。

認知症は病気と共に徐々に悪化することが多いのですが、ADLは発症後2-10年で急激に悪化することが知られています。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標

重度の低血糖は認知機能低下進行を助長することがあり認知症発症リスクが2.1倍)、インスリン製剤やSU剤などを使用している場合はHbA1C7.5%~8.5%程度のゆるめの基準で管理することが推奨されています。低血糖と認知症は互いの発症・発現リスクとなります。

高齢者の多剤併用と転倒

外来患者で5剤以上の内服がある、いわゆるポリファーマシーのケースでは転倒リスクが上昇することが知られています。

認知症患者さんの入院を検討した研究で、転倒および骨折のリスクが増えることも明らかになっています。MMSEが26点未満では転倒リスクが2.6倍となることが知られている一方、骨粗鬆症の治療薬の投与がしばしば十分でないことが知られています。

また、認知症周辺症状がある場合、骨折後のリハビリテーション効果が不十分であることも多く、認知症患者さんにおける周辺症状の治療の重要性が伺われます。

虚弱高齢者(フレイル)

フレイル(frail)とは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態です。

フレイルの評価方法としては、体重減少(半年で2-3kg)・筋力低下(握力が男性で26kg・女性で18kgを下回る)・疲労感・歩行速度低下・身体活動の低下(定期的な運動など)が挙げられます(J-CHS基準→3つを満たせばフレイル)。

おおむね要支援1-2の患者様が該当し、リハビリなどで元に戻りうる状態(可逆性)を指します。

frailは①社会的フレイル(独居・経済的困窮) ②精神・心理的フレイル(認知症ではないが、認知機能障害がある状態) ③身体的フレイル からなり、ある一つの要素が悪化すると他の要素も悪化することがいわれています。

フレイル高齢者は要介護認定になったり、認知症を発症するリスクが高いといわれています。

身体的フレイルが進行すると認知症が発症するリスクに繋がるといわれています。

加齢に伴うホルモンの変化

加齢に伴い男性ホルモン・女性ホルモン・副腎ホルモン(DHEA 性ホルモンの前駆体)・成長ホルモンの低下することが知られています。

男性ホルモン(テストステロン)の減少は女性でも骨格筋量の減少と関連があります。

漢方薬の補中益気湯はテストステロン濃度を上昇させる働きが有り、フレイルに対し投与されることがあります。

加齢に伴う骨格筋量の減少をサルコペニアといいますが、筋肉量の低下で易感染性などが生じ、死亡率が上昇することがいわれています。

サルコペニア・フレイルに対する介入の可能性

①運動

運動は高齢者のフレイル対策に重要です。中等度の強度(運動しながら会話ができる程度)で20分程度散歩をすると良いです(階段の昇降、グラウンドゴルフ、坂道を上るときの小走り)
10日間ベッドで横になると、筋肉の合成量が3割程度減少するという研究もあります。臥床よりはせめて座ることが推奨されます。

また、GH入所中の高齢女性を対称とした研究で、一日30分ダンベルを用いた体操を行ったところ、男性ホルモンや副腎ホルモンの量が上昇したという報告もあります。

IADLを保持する運動、有酸素運動、レジスタンス運動(ダンベル)を組み合わせることが有用です。

②栄養

肉・魚を含めた動物性タンパク摂取が少ないとフレイルになりやすいことがいわれています。

高齢者が誰と食事をするかも大事なところであり、孤食(一人で食事をとる)とうつ病発生のリスクが上がるという報告があります。地域を中心に皆で食事をとる「共食」が大事になってきます。

いわゆる8020で20本歯が無い方のうち義歯を入れていない方は認知症リスクが上がるというのも興味深い所です。

認知症予防に向けた食事は確立していない所もありますが、食事バランスやカロリーを適正化し 魚(60-90g)・緑黄色野菜(葉物100g)・果物(グレープフルーツ一日一個など)を摂取していくことが大事です。塩分はなるべく控えたいところです。

一部のアルツハイマー病で牛乳や乳製品の摂取と発症の関連がいわれており、摂取量が増えると発症リスクが低下したというデータもあります(タンパク質を補うという観点から大事かもしれません)

③薬物

血中のビタミンD濃度が低いと認知症リスクがあがるという報告があります。今後フレイル対策も含めて、ビタミンD補充も治療選択肢に入ってくるかもしれません。日光浴でVitDが補充されますが、夏場は日陰で30分、冬は一時間程度は日光にあたる環境を作っても良いかもしれません。

健康寿命の延伸に向けて

寝たきり・要介護になる大きな原因は、脳血管障害・認知症・転倒骨折があげられます。生活習慣病(高血圧 糖尿病 脂質異常症)はこれらの危険因子になるため、早期に介入していくことも大事ですし、加齢には抗えないとしてもフレイルに注目していくことで進行を防いだり、遅らせたりできるのではないかと考えられます。

おまけ

frail (老衰)
flail 棍棒

投稿者

古田 夏海

群馬県高崎市「ふるた内科脳神経内科クリニック」で脳神経内科・内科の診療を行っています。

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