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ハンチントン病とは
ハンチントン病(Huntington’s disease:HD)は舞踏運動と精神症状、認知症症状を主症状とする常染色体優性遺伝疾患です。浸透率が高く、多くの症例では家系内に同じ症状の患者さんを認めます。かつてはハンチントン舞踏病と呼ばれていましたが、舞踏運動以外にも様々な症状を呈する事から、ハンチントン病と呼称されるようになりました。
ハンチントン病の症状
典型的な四肢・顔面の舞踏運動は当初は目立たず、「落ちつきがない」程度の変化としてとらえられることが多いです。運動症状以上に患者の生活を障害するのが主意力低下、うつといった精神症状です。また小児期に発症する場合は舞踏運動がなく、精神症状が目立ったり、ジストニアや小脳症状が目立ったりする場合が多いことが知られています。緩徐進行性であり、発症から10~15年で全介助となる可能性があります。
原因遺伝子
ハンチンチンHuntingtin(HTT)遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長を原因とする、ポリグルタミン病のひとつです。
一般的には中年期以降に発症します。リピート数は40以上で発症しますが、36~40リピートでは発症は不確定です。わが国の有病率は100万人あたり7人程度とされます。リピート数が長いほど若年で
発症し、また重症化します。特に父親から遺伝する場合にリピート数が伸長しやすいことが知られています。
鑑別疾患
常染色体優性遺伝の家族歴を有することが診断のポイントとなりますが、父系遺伝の場合など、時に家族歴が目立たない場合もあります。
鑑別疾患としては
・糖尿病性舞踏病(急性発症で片側性)
・脳血管障害による舞踏病(急性発症で片側性)
・妊娠性舞踏病
・小舞踏病(リウマチ熱)
が後天性疾患では重要です。
一方変性疾患としては
・歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)
・脊髄小脳失調症17型(SCA17)
・ハンチントン類縁疾患2型(Huntington’s disease-like 2:HDL2),
・有棘赤血球症を伴う舞踏病
などがありますが、いずれも遺伝子診断によって鑑別します。
頭部MRI所見
尾状核頭の萎縮が特徴的です。水平断より冠状断のほうが萎縮の程度は検出しやすいです。
治療薬
根本治療はないため、対症療法と支持的療法が主体となります。
①運動症状の治療
・コレアジン®(テトラベナジン)
ドパミン遮断薬です。遺伝子診断しないと処方できません。
機序はプレシナプスにおいて神経伝達物質を抑制しchorea(舞踏運動)を抑制します。
(処方例)コレアジン®12.5mg 1回1錠
1日1回(朝)より開始、自殺念慮やうつの悪化がないかを確認しつつ1錠ずつ2回、3回と増量します。最大量は1日100mg、1回37.5mgです。
禁忌は自殺念慮、自殺企図、不安定なうつ病、うつ状態の患者です。
効果不十分の場合は、定型抗精神病薬の抗ドパミン作用を利用します。
(例)セレネース®0.75mg(ハロペリドール)1T分1夕
0.75→1.5→2.25→3mgと増量します。
コントミン®(クロルプロマジン)25mgから開始 も用いられます。
副作用の傾眠、パーキンソニズムには注意が必要です。
②精神症状の治療
・抑うつには選択的セロトニン再取込み阻害薬が第一選択です。
(例)レクサプロ®10mg錠(エスシタロプラム)1回1錠1日1回(夕)より開始し、効果をみて20 mgまで増量します。
易刺激性や興奮には非定型抗精神病薬を用います。
(例)セロクエル®25mg 1錠分1夕より開始、効果をみて1日150mg分2~3まで増
量、またはリスパダール®1mg錠(リスペリドン)1錠分1夕より開始し、効果をみて1日4mg分2~3まで増量します。
気分障書にはバルプロ酸やカルバマゼピンを使用します。
(例)デパケン®200mg錠(バルプロ酸)2錠分2朝夕食後
効果をみて1回400mgまで増量
(例)テグレトール®100mg錠(カルバマゼピン)2錠分2朝夕食後で開始、効果をみて1回
400mgまで増量します。