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筋萎縮性側索硬化症とは
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)は、随意筋を支配する上位(一次)(大脳皮質運動野)および下位(二次)(脊髄前角細胞および脳幹部運動諸核)運動ニューロンが選択的・進行性に障害される原因不明の神経変性疾患です。
ALSの臨床症状
上位運動ニューロンの障害による腱反射射亢進ならびに Babinski 徴候と、下位運動ニューロンの
障害による四肢の筋力低下と筋萎縮、筋線維束性収縮(fasciculation)、球麻痺(延髄 IX,X,XII 核)による嚥下障害、構音障害、舌の萎縮がみられます(Babinski 徴候の頻度は高くありません)。外眼筋や外括約筋は随意筋であるのに侵されません。症状が進行しても感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害および褥瘡がみられず、四大陰性徴候として知られています。小脳症失調、パーキンソニズム、自律神経障害などもみられません。一般に他覚的感覚障害はみられませんが、初期には自覚的
なしびれや痛みを伴うことがあります。
ALSと認知症
ALS 患者の約 50% は経過中に人格変化、社会的行動異常、言語障害(進行性非流暢性失語や意味性失語)などの前頭側頭葉機能障害で特徴づけられる認知機能障害が合併することが報告されています。
病態生理
現在想定されているALSの病態生理として
- 興奮性細胞死仮説
神経伝達がシナプスを介してなされるとき、前シナプス終末からグルタミン酸が放出され、後シナプスのグルタミン酸受容体に結合し受容体が活性化されることにより、Naイオン・Caイオンなどが後シナプス側に流入し、神経細胞が興奮します。興奮伝達が過剰になると,グルタミン酸受容体から細胞内にイオンが過剰に流入し、神経細胞を傷害して神経細胞死を引き起こします(興奮性細胞死)。緩徐な細胞内流入による興奮性神経細胞死には、グルタミン酸受容体の中の AMPA 受容体が関与しています。
- RNA 調節機構異常仮説
遺伝子情報は DNA →RNA(転写)→蛋白質(翻訳)となり、Golgi 装置・細胞膜あるいはライソゾームなどに輸送されます。DNA→RNAに転写される際に、イントロンを含んだまま DNAから転写されたメッセンジャーRNA は、不要な部分を取り除く作業(スプライシング)を行います。これらの遺伝子情報システムに支障をきたすと、年月の経過とともに細胞の機能が傷害されて細胞死に至ります。近年、RNA の修飾機能をもつ RNA 結合蛋白質である TARDBP(Transacting response DNA binding protein of 43 kDa(TDP-43))や FUS(fused in sarcoma)、別名 TLS(translated in lyposarcoma)(FUS/TLS)などの異常が ALS の発症に関わると考えられています。TDP-43 と
FUS/TLS の蛋白質は、構造と機能(RNA 結合蛋白で転写調節を行う)が類似しており、未成熟メッセンジャーRNA(pre-mRNA)からイントロンを切り出す mRNA のスプライシングなどに関与していると考えられています。TDP-43 と FUS/TLS の相違点は、TDP-43 は正常神経細胞では核のみに存在するが、FUS/TLS は核と細胞質に存在することです。
頭部MRI所見
MRIでは通常、明らかな異常所見を認めず、他疾患の鑑別のために行います。T2強調画像で皮質脊髄路(錐体路)の信号変化や運動野のT2強調像での信号低下などが挙げられますが、正常でもみられるものもあり特異度は高くはないものが多いです。
血液検査
進行期にCKが上昇することがあり、筋萎縮などの下位運動ニューロンの障害が進むためと考えられています(Clin Neurophysiol. 2018 May;129(5):926-930.)。